| 骨髄間質細胞移植・関係資料 |
2003年12月10日、関西医科大学の医学倫理委員会において、脊髄損傷者に対する骨髄間質細胞を移植するわが国で始めてのヒトに対する神経再生医療が承認された、と報じられている。
ここに、最近の報道と骨髄間質細胞に関する主要論文の要旨をまとめ、この移植法を考える素材とした。
2003/12/18 日本せきずい基金・事務局
【資料集・構成】・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
* 「細胞移植で脊髄損傷を治療 関西医大、国内初実施へ」(共同通信 配信記事 2003年12月11日) * 「関西医大、骨髄細胞による脊髄損傷の臨床研究を計画中、時期尚早との声も」(日経バイオテク 2003年12月18日付) * 「骨髄間質を用いた臓器再生と細胞治療」(第117回日本医学会シンポ/1998)より。梅澤明弘(慶応大学医学部病理学助教授) * 「骨芽細胞から神経への転換」 (「最新医学」2002年7月号) 梅澤 明弘ら * 「骨髄間質細胞を用いた神経再生への試み」(「実験医学」2002年6月号)出澤 真理(横浜市立大学。現、京都大学) * 「骨髄間質細胞における選択的誘導法の確立と神経再生への応用」、「組織再生と機能回復」シンポ、国立身体障害者リハビリテーションセンター主催、2003年12月6日。出澤真理(京都大学大学院医学研究科・生体構造医学講座・機能微細形態学 助教授) * 「骨髄間質細胞のドーパミン作動性ニューロンヘの分化誘導と移植応用」
第2回日本再生医療学会抄録No.2521(2003/3)
○出澤真理1)、菅野洋3)、鈴木義久2)、井出千束1)、京都大学院医・生体構造医学1)、形成外科2)、横浜市大・医・脳外科3)* 「脳脊髄液経由でニューロスフェアーを脊髄損傷部へ移植する方法の開発」
第2回日本再生医療学会抄録No.2525(2003/3)
鈴木 義久ら(京都大学医学部形成外科) 井出 千束ら(京都大学医学部機能微細形態学教室)* 「骨髄間葉系多能性幹細胞純化の試み」
第2回日本再生医療学会抄録
金城謙太郎、岡野栄之ら(慶応大学医学部生理学教室)* 020201 「細胞を利用して中枢神経の修復」 <日経BP社のBizTECHのHPより> * 2003年2月18日 「中枢神経を修復、横浜市大が成功」 <日本経済新聞より> * 「細胞注入、脊髄損傷を改善 京大教授らラットで確認」
(ウエブ版 共同通信 2003/03/11/ 00:17 より抜粋)* 「骨髄間質を用いた臓器再生と細胞治療」 梅澤明弘,秦順一 2000年
http://web.sc.itc.keio.ac.jp/~au/kansitu.html* 「骨髄間質による骨・軟骨形成」 梅澤 明弘(国立生育医療センター研究所生殖医療研究部長)
(「実験医学」21巻8号 特集:幹細胞研究の最前線、2003年5月)* 「脊髄損傷患者に再生治療を計画 関西医大、来月にも」
(ASAHI・COM関西 2003年12月11日)
◆ 骨髄間質細胞とは (JSCF事務局)
骨髄:骨髄は、胸や腰の骨の内部にあるゼリー状の組織で、ここで白血球、赤血球、血小板などの血液を造っている。骨髄には、血液の元となる、骨髄幹細胞(造血幹細胞)が含まれている。骨髄移植での骨髄液採取は、全身麻酔下に腰の腸骨に数十回針を刺して移植必要量を採取する。
間質:実質の隙間を埋める結合組織で、中に血管や神経を含んでいる。
間葉細胞:骨格・筋肉・循環器・泌尿生殖器・体腔壁を形成する中胚葉性細胞。胎児の疎性結合組織を形成し、繊維芽細胞、軟骨芽細胞、骨芽細胞など、多様な細胞に分化できる能力を持つ。
* 以下の内容は、発表年に留意が必要。論文の要約、下線および〔〕内は事務局による。
◆ 細胞移植で脊髄損傷を治療 関西医大、国内初実施へ
(共同通信 配信記事 2003年12月11日)
関西医大(大阪府守口市)の医学倫理委員会は10日までに、救急医学科の中谷壽男教授が申請していた、脊髄(せきずい)損傷の患者に本人の骨髄細胞を移植し、神経の再生を促す国内初の臨床研究計画を承認した。京都大形成外科の鈴木義久・助教授との共同研究。設備を整え、来年2月にも実施する。
この方法は京大がラットの実験で効果を確かめた。骨髄中の間質細胞が損傷部に付着して特殊な物質を放出し、神経再生を促すとみられる。新たな外科手術が不要で患者の負担が軽く、本人の細胞を使うため拒絶反応がないのも利点という。
交通事故などによる脊髄損傷患者は毎年全国で5千人以上と推計されているが、リハビリを続ける以外に根本的な治療法がないのが現状。中谷教授は「損傷の程度によって効果に差はあるだろうが、わずかな回復でも患者にとっては大きな意味がある」と話している。
計画では、患者が病院に搬送された直後に、骨折や脱臼を治療する際に骨髄を採取し、含まれる間質細胞を約二週間かけて培養。腰から髄液を通じて脊髄内に注入する。
こうした臨床研究は例がなく未知な点も多いが、倫理委は関西医大で間質細胞を心筋梗塞(こうそく)患者の心臓などに移植した研究で大きな副作用がなかったことや、京大の実験結果を検討し、安全性に問題はないと判断した。(了)
◆ 脊髄損傷患者に再生治療を計画 関西医大、来月にも
(ASAHI・COM関西 2003年12月11日)
事故で首を強打して半身不随になる脊髄(せきずい)損傷の患者に対し、関西医科大(大阪府守口市)が再生治療を計画している。倫理委員会がこのほど承認し、早ければ来年1月にも治療を始める。国内では毎年5千人ほどが脊髄損傷を起こしているが、有効な治療法はなく、新治療は関心を集めそうだ。
治療チームは関西医大の中谷寿男教授(救急医学)、京都大の鈴木義久・助教授(形成外科)、井出千束教授(機能微細形態学)ら。関係者によると、患者の骨髄組織から取り出した骨髄間質細胞を培養し、それを患者の腰から脳脊髄液中に注射する。
鈴木さんらは脊髄損傷を起こしたネズミで実験をくり返した。まひのためネズミは後ろ脚を引きずる状態だが、培養細胞を注射すると後ろ脚が動き始め、体重を支えることができるようになった。脊髄組織に生じた空洞も半減したという。
関西医大病院の救命救急センターには、毎月2人ほど脊髄損傷患者が運び込まれる。手足とも動かず、命にかかわる重症患者が多い。中谷さんは「動物では効果があったが、実際の患者はずっと重症で過度の期待は禁物だ。しかし、少しでも患者のQOL(生活の質)が上がれば、治療の意義はある」と話す。
(2003/12/11) 以上
◆ 日経バイオテク 2003年12月18日付
関西医大、骨髄細胞による脊髄損傷の臨床研究を計画中、
時期尚早との声も
「http://biotech.nikkeibp.co.jp/news/detail.jsp?id=20023268 を参照」
◆ 骨髄間質を用いた臓器再生と細胞治療
(第117回日本医学会シンポ/1998)より
梅澤明弘(慶応大学医学部病理学助教授)
- 胎児性幹細胞、胎児性癌細胞は多分化能を有している。
- 骨髄由来の間質細胞が心筋細胞、骨細胞、脂肪細胞になることを私は報告してきた。
- これらの分化誘導はわれわれのグループが世界で初めて成功した。
- 骨髄間質は骨髄中に存在し、造血を支持する能力がある。
- 間質細胞の「造血に関する貢献」とは別に、「間質細胞そのものの分化能」を利用し、骨髄間質細胞を細胞治療ならびに臓器再生の供給源として役立てることができる。
- 脱メチル化:骨芽細胞・脂肪細胞・軟骨芽細胞はもともと骨髄間質の初期値(細胞の固有の状態)にあるので、細胞療法に利用する場合は、初期値をリセットする必要がある。細胞の固有の状態を解除するために脱メチル化剤5-azacydineを使用する。
- 神経系への分化誘導には発生学の知識を利用する予定。
- マウス由来骨髄間質細胞:マウス細胞は分裂停止し増殖がとまるまでヒトに比較して限られている。しかし容易に不死化可能なため腫瘍化しておらず、不死化した細胞を得ることで移植系を立ち上げ、十分量の細胞確保が可能である。
* 腫瘍化しないことが重要。腫瘍化した場合、分化効率が落ちる。また移植した場合、腫瘍となり、宿主に不都合となる。
- ヒト由来骨髄間質細胞:マウスのように自然に不死化することはない。SV40 large T 抗原か Polyoma middle T抗原で不死化する細胞が出現するが、同時に腫瘍化し、分化形質を失い、移植先で腫瘍を形成した。〔SV40:がん関連が疑われるパポーバウイルス科に属するDNAウイルス。Polyomaウイルスはパポーウイルス科のポリオーマーウイルス属〕
- ヒト由来骨髄間質細胞の細胞移植:10人以上からの骨髄間質細胞を用いて初期培養したところ、数代で細胞増殖は停止した。細胞は単離した人の年齢に依存し細胞寿命が決められているため異年齢から採取したが、細胞増殖が長くなるとは限らなかった。
- 細胞寿命の延長:脱メチル化処理から分化誘導まで何回か増殖させるので、ヒトの細胞移植を試みる上で細胞寿命を延ばすことが必要である。繊維芽細胞の寿命をテロメレースは延長するとされているので、骨髄間質細胞の寿命が延長することが予想される。
〔テロメレース:線状染色体の両端をテロメアといい、テロメレースは、テロメアDNAの末端に新たにテロメアDNAを合成する酵素〕
- 増殖における液性因子の重要性:ヒト間質細胞の未分化状態を保つことと増殖の維持にbFGF(繊維芽細胞増殖因子)は有効であった。細胞寿命を延長させるわけではないので、明らかに増殖を促進し、短時間で必要な細胞数を得ることを可能にした。
◎ 骨髄間質細胞と他の幹細胞との比較
- ES細胞(胎児性幹細胞):全能性を有し、基本的に胎盤を除くすべての細胞を供与することが可能である。 ただし、各個人のES細胞を簡単に樹立できるか、必要細胞量を確保できるか、疑問。 また特定細胞に分化させ移植先で目的の細胞のみ利用することも難しい可能性あり。
- 胎児組織から得る間葉系細胞:不死化していないが胎児から単離するため増殖停止までの細胞寿命は長く、十分な細胞数を得ることが可能である。腫瘍化もしていないため分化化誘導も比較的容易。問題は倫理面と中胚葉系の細胞のみの分化能。間葉系細胞〔中胚葉系細胞〕を増殖させるので中胚葉以外の細胞を得にくいという欠点がある〔神経系は胚体外胚葉から生じる〕。
- 成人組織細胞:分化しきった細胞であり、形成能および分化は最も優れている。ただし、成人から得られた成熟細胞は、骨髄間質以上に細胞寿命が短くほとんど増殖しないため、目的の細胞数を得ることが難しい。
*「どんな細胞が細胞治療に利用できるか」という根源的な疑問が存在する。骨髄間質細胞は骨髄中に存在し骨髄穿刺で容易に採取でき、培養技術が確立している。臨床再生医学に用いることができる最も現実的な細胞の1つとして骨髄間質細胞がある。
◎ 質疑応答から
梅澤:骨芽細胞を生体内に注入すると2日で生体内に骨を作る。しかし、脱メチル化剤5-azacydineを処理してトリックを使うと、神経に転換できると考えている。
Q:細胞の分化の方向は決まっているのか。
梅澤:10種類以上の細胞を使っていて、その中に間葉系細胞と思っている細胞があるが、その細胞を完全にコントロールしているわけではない。心臓に打った場合、骨や神経ができたことはない。しかし、脾臓に注入し肝臓を作ろうとした際、脾臓の中が骨だらけになったことがある。
◆ 骨芽細胞から神経への転換
(「最新医学」2002年7月号)
梅澤 明弘(慶応大学医学部病理学教室)ら
【要旨】 骨髄中に存在する間葉系細胞は、神経系細胞に転換する。間葉系細胞には脂肪細胞、骨芽細胞、軟骨芽細胞が存在する。その中では、脂肪細胞は神経細胞には分化しないが、骨芽細胞は神経細胞へ分化する。この分化には、脱メチル化薬である5−アザシチジンを用いるが、骨形成阻害因薬であるノギンを用いることによっても生じる。
その神経細胞への分化は、形態、神経特異的分子の発現および神経伝達物質に対するカルシウムの流入によって明らかになった。中胚葉由来である骨芽細胞から外胚葉由来のニューロンへの転換が、試験管内で細胞レベルで可能である。
◎ 細胞のメチル化/クロマチン改変に伴う
確率的な分化誘導
- 脱メチル化作用を有する低分子化合物による分化は確率的であり、現在のところ予想できる範囲にない。
- 脱メチル化薬で処理することは、2つの作用がある。
@ 細胞の分化状態を元に戻す(リセットをかける)。
A 細胞の分化に必要な(マスター)転写因子の発現を誘導する。
◎ 脱メチル化薬(5−アザシチジン)による
骨髄間質の神経への細胞転換
- 骨髄中で網目構造をとりギャップ結合〔細胞間結合〕している骨髄由来の間葉系細胞を、10%血清入りの培養液中で増殖させ、5−アザシチジンで4日間処理する(その間、NGF:神経栄養因子をいれておく)。1日でも4日でも神経への分化効率は違わない。その後、NGFが含まれたDMEM/F12/B7培地で30日間培養することで、神経伝達物質(アセチルコリン)に反応する神経細胞が得られる。活動電位は検出されなかった。
- 5−アザシチジン処理後4日目で、長い軸索を持つ神経細胞が得られるが、その発現率は10%以下である。
◎ 発生に基づいた
「骨芽細胞から神経細胞への転換」プロトコール
- 低分子化合物による分化の確率は決して高いものでない。
- 一方、神経発生学の成果より、BMP〔骨形成たんぱく質〕の阻害薬であるノギンによる分化効率には目をみはるものがある。このプロトコールで効率よく神経に分化する細胞は骨芽細胞であった。
- 骨芽細胞を増殖しノギン遺伝子を導入して分化した細胞は、5−アザシチジンの場合とは異なり、驚いたことにニューロンのマーカーは陽性になるが、アストロサイトやオリゴデンドロサイトのマーカーが陽性となる細胞はほとんど認められなかった。活動電位も認められなかった。
◎ 骨芽細胞がニューロンに転換する意味
- 中胚葉由来の細胞が外胚葉由来の細胞〔神経細胞〕に転換できることを試験管内で細胞レベルで明らかにした。細胞の分化が胚葉を越えることがあるということは、従来の概念である「生体外に持ち出しても細胞の形質、分化は安定である」という考えから逸脱している。
◆ 骨髄間質細胞を用いた神経再生への試み
(「実験医学」2002年6月号)出澤 真理(横浜市立大学。現、京都大学)
【要約】 骨髄間質細胞は、骨、軟骨、脂肪、心筋や神経などさまざまな細胞に分化する能力を持つ。また比較的に採取が容易であり、免疫拒絶反応の心配のない自家移植への可能性を秘めているため、再生医療へのポテンシャルは注目されつつある。本稿では神経再生を誘導し、なおかつ髄鞘形成能力を有する細胞の分化誘導と神経再生への応用について概説する。
◎ 初めに
- 末梢神経は再生するが、この末梢の環境を利用することで中枢神経再生を引き出せることがわかってきた。また、神経系由来の細胞を主流とした種々の細胞移植も試みられているが、神経系とはまったく異なる細胞も候補となりつつある。
◎ 骨髄間質細胞の多分化能
- これまでの生物学の概念:神経系は外胚葉から、筋肉・造血系は中胚葉から、肝臓などは内胚葉から形成されと考えられてきた。しかし胚葉という既成概念を越えた段階にきた。細胞のもつ可塑性は案外大きいのかもしれない。
◎ 中枢神経と末梢神経の再生能力における違い
- グリア細胞の種類は、中枢と末梢で大きく異なっている。
中枢神経:アストロサイトとオリゴデンドロサイト(ミエリンを形成)からなる。
末梢神経:シュワン細胞が主たるグリア組織であり、ミエリン形成を行っている。
- オリゴデンドロサイトにはNogoやMAG(ミエリン由来糖タンパク質)に代表される伸張阻害因子が含まれており、変性組織に置き換わってアストロサイトが肥大増殖しグリオーシス〔瘢痕〕を形成し、中枢神経の再生を阻害する。
- 末梢神経では、損傷の遠位におけるシュワン細胞が軸索の変性(ワラー変性)を受けて髄鞘を形成する分化状態から未分化な状態に変化し、さまざまなサイトカインや促進因子を産生することによって、再生に適切な環境を作り出す。
- ミエリン:シュワン細胞由来のものではオリゴデンドロサイトに比べてはるかに阻害作用が少なく、その組成自体が末梢と中枢で大きく異なっている。
◎ 神経再生におけるシュワン細胞の有用性
- ワラー変性の中に存在するシュワン細胞:ニューロトロフィン、毛様体神経栄養因子(CNTF)、繊維芽細胞増殖因子(FGF)を初め多くに栄養因子を産生する。これらは、損傷した神経線維に働きかけ、生存と再生に作用する。
- シュワン細胞の基底膜:突起伸張において支持的に働く細胞外基質〔細胞間質〕が含まれL1などの接着分子が線維の伸張を助ける。
- 再生線維とシュワン細胞間における接着の足場構造としてタイト結合〔細胞間の間隙がない〕が、物質流通のホットラインとしてギャップ結合〔細胞間の間隙がある〕が介在し、緊密で構造的な連結が形成されている。
- 中枢神経は再生にネガティブだが、神経細胞そのものは潜在的に再生能力を持っている。阻害的なグリア環境をシュワン細胞に置き換える〔=末梢神経の環境にする〕ことで再生を引き出すことが可能である。すなわち、シュワン細胞は末梢神経だけでなく、中枢神経の再生も誘導できる。
- 他の神経線維再生を引き出す細胞:シュワン細胞のほか、上衣細胞〔脳室の内面を被い線毛を持つ〕、嗅神経鞘細胞(OEC)、神経幹細胞が報告されている。
- シュワン細胞を用いる大きなメリット:ミエリンの再形成。神経系の多くの線維が有髄線維であり、仮に再伸張を導いても線維のミエリン化と跳躍伝導の獲得が機能回復のキーポイントになる。シュワン細胞を中枢神経に移植することによって神経線維の再生を促すことができるだけでなく、それらの線維のミエリン再形成を図ることも可能であり、機能再建における合目的性がある。
◎ 骨髄間質細胞のシュワン細胞への分化誘導と
神経再生への応用
- シュワン細胞以外のソースの必要性:シュワン細胞が末梢神経に存在するため、手足から神経片を採取し単離するので侵襲がある。また成人由来シュワン細胞の大量培養は困難。
- 骨髄間質細胞からのシュワン細胞の分化誘導:
誘導法;成体ラットの骨髄間質細胞を採取し継代培養後、β−メルカプトエタノール(BME)を24時間投与、その後レチノイン酸を3日間添加し、最後にforskolin(FSK)、繊維芽細胞増殖因子(bFGF)、血小板由来成長因子-AA(PDFG)および heregulin-β1(HRG)を同時に培地に加え、シュワン細胞と同形質の細胞に分化誘導された。〔β−メルカプトエタノール:還元剤であり、組織培養分野ではその効果が明らかにされている〕
- この細胞を成体ラットの切断した坐骨神経と視神経に移植した結果、どちらも旺盛な再生を認めた。再生線維の多くは移植片の中の標識された骨髄間質細胞によるミエリン形成が認められた。 このような誘導によりなぜシュワン細胞ができたかは、今後の検討課題。
◎ 今後の展望
- 多分化能を持つために、目的とした細胞以外のものへの自発的な分化を制御することが最大の課題。
◆ 骨髄間質細胞における
選択的誘導法の確立と神経再生への応用
「組織再生と機能回復」シンポ、国立身体障害者リハビリテーションセンター主催、2003年12月6日、出澤真理(京都大学大学院医学研究科・生体構造医学講座・機能微細形態学 助教授)
略歴:
平成元年 千葉大学医学部卒業 千葉大学医学部第三内科入局
平成 7年 千葉大学大学院医学研究科博士課程修了 解剖学第二講座 助手
平成 9年 千葉大学医学部眼科学講座 助手
平成12年 横浜市立大学医学部解剖学第一講座 講師
平成15年 京都大学大学院医学研究科生体構造医学講座 助教授 現在に至る
〔要旨〕
骨髄間質細胞は採取が容易で培養下にて旺盛に増殖し、倫理的な問題が無い。また、免疫拒絶の無い自家移植系の確立が可能である。
しかし、骨・軟骨・脂肪組織の他に心筋などへの多分化能があるがゆえに、偶発的な脱分化に頼るのではなく、特定の操作による神経細胞誘導法の技術開発は臨床応用において必須であり、安全で効率的な再生医療の実現につながる。本研究においては神経系の発生分化に関与するNotch遺伝子の導入とサイトカイン刺激を加えることで選択的に神経細胞に分化する方法を見出した。
ヒトおよびラットの骨髄間質細胞において、Notch細胞内ドメインの遺伝子を導入することによって神経幹細胞様に分化転換する。遺伝子導入された細胞は神経幹細胞に特異的なマーカー(GLAST,3-PGDH,nestin)を発現しpromoter解析においてもそれらの因子の活性が有意に上昇していた。これらの神経幹細胞様に分化転換した細胞にある特定のサイトカイン刺激を与えると96〜98%という非常に効率の高い選択的な神経誘導が引き起こされる。誘導された神経細胞は神経マーカーを発現しておりBrd-U〔標識遺伝子の1つ〕の実験から分裂を終えたpost-mitotic neuron〔分裂後細胞〕であることが確認された。
またパッチクランプ実験において神経細胞であることが示唆された。RT-PCR,Iuciferaseアッセイ〔法〕、ウェスタンブロット〔共に測定法〕、免疫組織化学の解析を用いて調べた結果、この最終産物にはグリア細胞が一切含まれておらず、神経細胞だけで最終産物が構成されていることが明らかとなった。これらの神経細胞にさらにGDNF〔グリア由来神経栄養因子〕を投与することによってTH‐陽性細胞が40%近くに増加し、パーキンソンモデルラットの線状体〔大脳にあり歩行をコントロール〕に移植したところ、apomorphin〔アポモルヒネ〕誘導の回転運動、pawreaching test〔手足の能力テスト?〕、adjusting step testにおいて顕著な改善を示した。また、脳内でドーパミンを産生し顕著な症状改善を認めた。
神経細胞は現在のところ、神経幹細胞あるいはES細胞から誘導可能であるが、その多くは神経とグリアの混在系であったり、採取の困難性、倫理問題、免疫拒絶の難題がある。骨髄間質細胞は倫理問題が無く採取が容易なので、本研究のグリアの要素を含まない神経細胞の選択的な誘導と移植によるパーキンソンモデルでの症状改善は神経再生医療への示唆を与えると思われる。
〔注〕ドメイン:領域。Notch(ノッチ):英語で"切れ目"の意。細胞生物の発生にとても重要な分化のon-offを制御する因子。サイトカイン:細胞間相互作用を仲介し、しばしば細胞の成長と分裂を促進する。インターロイキンなど。パッチクランプ実験:細胞膜に直接針を刺すことで、単一細胞のイオンチャネル活動を高精度に測定する。TH‐陽性細胞:サイトカインのサブタイプTh1とTh2の陽性。
◆ 第2回日本再生医療学会抄録No.2525(2003/3)
2521 骨髄間質細胞のドーパミン作動性ニューロンヘの分化誘導と移植応用
○ 出澤真理1)、菅野洋3)、鈴木義久2)、井出千束1) 京都大学院医・生体構造医学1)、形成外科2)、横浜市大・医・脳外科3)
Notch細胞質ドメインを導入しbFGFなどの神経栄養因子を投与することによってヒトおよびラットの骨髄間質細胞から選択的にpost-mitotic neuron〔分裂後細胞〕が誘導されることを見いだした。この系はグリア細胞を含まない。これらの細胞にGDNFを投与すると約40%がTH陽性となり、ラットおよびヒトの細胞から誘導したものをパーキンソンモデルラットに移植したところ、apomorphine誘導の回転運動が顕著に改善し、移植線状体においてneurofilament〔神経フィラメント〕、TH、dopamine transporter陽性の神経細胞に分化した。骨髄間質細胞の神経疾患への応用が示唆される。
◆ 第2回日本再生医療学会抄録No.2525(2003/3)
「脳脊髄液経由でニューロスフェアーを脊髄損傷部へ移植する方法の開発」鈴木 義久ら(京都大学医学部形成外科)
脊髄損傷の治療に神経幹細胞の有効性が期待されている。そこで、脳脊髄液経由で神経幹細胞を脊髄損傷部に移植できないかを検討した。GFPラット*により海馬由来のニューロスフェーアー〔細胞塊〕を作成した。4週令のラットのT8-9レベルで脊髄に圧挫損傷を加え、第4脳室〔延髄の直近の上部〕に注入した。術後1ヶ月の観察では、脳脊髄液と共にクモ膜下腔を移動し脊髄表面の軟膜に付着していた。
井出 千束ら(京都大学医学部機能微細形態学教室)
また損傷部で多くの移植細胞が脊髄実質へ遊走し突起を出して宿主組織に組み込まれていた。免疫組織染色ではアストロサイト、オリゴデンドロサイトへの分化が観察された。神経根内ではシュワン細胞様の形状を呈していた。これらのことから、周囲の環境により幹細胞の分化の方向が決定されると考えられる。以上、脳脊髄液中に注入した神経幹細胞は損傷された脊髄および神経根の表面に付着し、さらに組織実質内に進入、分化することが明らかになった。
* GFPラット:緑色蛍光タンパク(GFP)でマーカーされた遺伝子改変ラット。
◆ 第2回日本再生医療学会抄録No.2525(2003/3)
骨髄間葉系多能性幹細胞純化の試み金城謙太郎、岡野栄之ら(慶応大学医学部生理学教室)
造血幹細胞はマウスモデルにおいて骨髄中より細胞表面抗原マーカーで純化された。一方、骨髄中に存在する間葉系多能性幹細胞は、付着する性質により分離され、骨、筋肉、脂肪細胞などへ分化する。しかし、それらの細胞を付着細胞として培養する段階を経ずに、プロスペクティブ(予期的)に細胞表面抗原を用いて分離、同定することで、骨髄における細胞群につき詳細な情報が得られると共に、臨床応用という点においても、より短期間に自己の細胞を様々な細胞へ分化させうる可能性がある。
我々は以前より、細胞未分化幹細胞としてHoechst dye(ヘキスト染色)に染まらないサイド・ポピュレーション分画に注目し、またその分画と各種細胞表面抗原を用いることで、間葉性多能性幹細胞をプロスペクティブに分離、同定する試みを行ってきた。本学会では、細胞表面抗原に対するモノクローム抗体を用いたマウス骨髄細胞に存在する間葉系多能性幹細胞を分離・同定する試みにつき発表する。
◆ 020201 細胞を利用して中枢神経の修復
<日経BP社のBizTECHのHPより>
横浜市立大学の沢田元教授、出沢真理講師らは、脳や脊髄など一度損傷すると再生しないとされてきた中枢神経を修復する手法を開発した。神経繊維を伸ばす手助けをしているシュワン細胞を、骨髄間質細胞から効率よく作り出すことに成功したもので、自分の骨髄細胞を採取し培養するだけでよいので、比較的安全性が高く費用もかからない。作った細胞を中枢神経の周辺に移植する。ラットの実験では、切断した視神経が伸び脳まで達した。シュワン細胞を人間から採取しようとすると、末梢神経を傷つける恐れがある。
◆ 2003年2月18日 中枢神経を修復、横浜市大が成功
<日本経済新聞より>
脳や脊髄など一度損傷すると再生しないとされてきた中枢神経を修復する手法を横浜市立大学の研究チームが開発した。骨髄細胞から神経再生を手助けする細胞を作り中枢神経の周辺に移植する。脊髄損傷の治療にも生かせるとみている。
同大の沢田元教授、出沢真理講師らは末梢神経にあり、神経線維を伸ばす手助けをしているシュワン細胞に着目。さまざまな細胞に成長する能力を持つ骨髄間質細胞から、この細胞を効率よく作り出すことに成功した。ラットの実験では切断した視神経が伸び脳まで達した。
細胞注入、脊髄損傷を改善 京大教授らラットで確認
(ウエブ版 共同通信 2003/03/11/ 00:17 より抜粋)
脊髄を損傷させたラットの髄液に、多様な組織になる能力がある幹細胞を含む骨髄間質細胞を注入すると、下半身不随などの症状が改善することを京都大の井出千束教授(機能微細形態学)、鈴木義久助教授(形成外科)らが10日までに確かめた。
機能回復が難しい脊髄損傷の新しい治療法につながる可能性があり、井出教授らはヒトと同じ霊長類のサルで安全性を確認し、患者への臨床応用を医学部の倫理委員会に申請する予定。成果は米専門誌に発表、11日から神戸市で開かれる日本再生医療学会で報告する。
井出教授らは、脊髄を傷つけたラットの後頭部から、髄液に骨髄間質細胞を注入。
脊髄損傷の程度で効果は違うものの、1-3週間で関節を曲げたり足で体重を支える姿勢をとるなど回復をみせた。
損傷部の空洞に新しい組織ができて3-4割が埋まっていたという。
何も投与しなかったグループでは、症状に大きな改善はなかった。
骨髄間質を用いた臓器再生と細胞治療
http://web.sc.itc.keio.ac.jp/~au/kansitu.html
梅澤明弘(現、国立生育医療センター研究所生殖医療研究部長,秦順一 )2000年
- 骨髄は大きく血液細胞とそれを支持する間質細胞からなる。骨髄間質細胞は間葉系の細胞と同じかたちをし,骨髄の中で細網構造をとっている。骨髄間質細胞は、培養により浮遊状態で増殖する血液細胞とは異なり、壁に付着して増殖する。培養そのものは、通常の線維芽細胞と同様で比較的容易である。
- 骨髄間質細胞は成人由来の細胞であり、基本的に「骨髄間質細胞」として分化した細胞である。分化した細胞が別の種類の分化した細胞になる。
- 間質細胞は間葉系由来の細胞であり、いろいろな細胞に分化する。骨髄間質細胞が分化誘導されることにより、骨細胞,心筋細胞,軟骨細胞,腱細胞,脂肪細胞になる。
骨髄間質細胞が心臓になることは、昨年(1999年)の3月に慶應義塾大学の内科と病理が共同で発表した。ここで大事な点は、骨髄細胞はいろいろな細胞になると言っても心筋を初めとする中胚葉由来の細胞になるということだ。
- 例外は、今年(2000年)の5月にサイエンス誌に発表された「骨髄の細胞から肝臓ができる」である。肝臓は内胚葉由来であり、中胚葉から内胚葉の細胞へと胚葉を越えて分化している。この内容は、その意味の重大性からCNNやワシントン・ポストといったマスコミにも紹介された。その論文では、「骨髄細胞」と書いてあるだけで内容を読んでも、肝臓の細胞になるのが骨髄中の血液細胞なのか間質細胞なのかは分からない。いずれにせよ、「肝臓細胞や胆管細胞になる前駆細胞が、骨髄の細胞からできる」と主張している。
- もし、胚葉を越えて分化するとなら骨髄間質細胞が外胚葉由来である神経に分化することができるかもしれないし、そうなれば、脊髄損傷や火傷の患者さんに骨髄間質の細胞治療の可能性が開かれる。事実、間質細胞からグリアができると報告されている。しかし、間質細胞からニューロンができるという報告はない。
- 間質細胞を用いて体を形成する全ての種類の細胞を生み出すという夢がある。しかし、現実的には間質細胞は極めて限られた細胞(すなわち,心臓,骨,脂肪)にしか私達の研究室では、現在のところならない。部分全能性しか示さない。
- 骨髄間質細胞を用いることによる最大の問題点は、現時点でヒトの骨髄間質細胞をさまざまな細胞に分化させることができるかどうかが分からないことだ。昨年(1999年)4月のサイエンス誌にヒトの間質細胞を分化させることができたという論文をオサイリス社が発表したが,私自身はあまり信じていない.論文に記載されているのと同じ方法に従ってみても、マウスの細胞のようには分化してくれない。
- 次の問題点はうまく分化できても治療に使えるくらいまでの細胞数確保できるかだ。細胞治療には、まず目的とする細胞の前駆細胞を間質細胞より作り、前駆細胞は増殖能力を有しているので大量に増やす。その後、増えた細胞を誘導剤を利用して分化させ,生体に戻す。誘導剤を用いることで分化することは、いくつかの種類の細胞で示すことが可能となったが、前駆細胞という状態で増殖させることに関しては分からない。
- 最後は、それぞれの分化形質を完全にコントロールすることができるかどうかである。分化形質を誘導することは可能となったが、それらはたぶんに確率的要素を含んでおり、全ての細胞を目的の細胞にすることまでには、いっていない。
- 骨髄間質細胞は、骨髄中に存在し骨髄穿刺で容易に採取でき、培養技術も確立している。私はここでくり返したいことは、臨床再生医学に用いることができる最も現実的な細胞は骨髄間質細胞である。「再生」という言葉は相応しくないかもしれない、骨髄間質細胞を骨髄の造血を指示する細胞として用いるのではなく、分化誘導させることによって、全く別の細胞に生まれ変わらせるので「細胞治療」という言い方が適切かもしれない。
骨髄間質による骨・軟骨形成
(「実験医学」21巻8号、2003年5月)
梅澤 明弘(国立生育医療センター研究所生殖医療研究部長)
◎ はじめに
- 骨髄を採取し単層培養を行うとコロニーを形成する線維芽細胞が出現する。これが試験管内における骨髄間質細胞といわれる細胞である。この細胞の中に自己複製能と、複数の間葉系細胞へと分化する多分化能を有する幹細胞が存在している。
- 骨髄間質細胞の多くは20継代から40継代程度の増殖能力を持つものの、継代を重ねるにつれ増殖能、分化能の低下を認め細胞死を迎える。
- 骨髄間質細胞を採取し実験系に用いる場合、多分化能を有した状態を保ち、かつ細胞数を確保する点で難渋し、再現性のある結果が得られにくい。
- それに対して、細胞株〔cell line 細胞塊〕は単一細胞由来で細胞数を確保でき、実験系に用いるのに有用であることは言うまでもない。
◎ ヒト骨髄間質細胞の寿命延長
- ヒト骨髄間質細胞はマウス骨髄間質細胞と異なり、不死化細胞の自然発生はまず認められない。
- そこでヒトパピローマウイルスのE6およびE7遺伝子を導入し、寿命を延長させる。これらの遺伝子では、細胞の分化能力は保持され、移植しても腫瘍を形成しない。すなわち形質転換はない。
- しかし、染色体異常を引き起こし、細胞の継代を重ねた場合には形質転換する可能性は否定できない。
- 骨髄間質細胞の寿命延長を目的に、遺伝子導入が行われている。その細胞に1つであるUBET7は、脂肪、神経、骨格筋への分化能力を保持し、細胞形態も比較的正常に近い。現在、腫瘍化の有無の確認を行っており、ヒト骨髄間質細胞の細胞数の確保に有効な手段と考えている。
◎ おわりに <骨・軟骨形成の項は割愛した>
- 〔骨髄間質細胞は〕多分化能を持つ細胞だけに、目的とした細胞以外に分化することに注意しなければならない。他方向への分化が決まった前駆細胞を含まないように幹細胞を純化する培養法、細胞採取法を開発することも必要になってくる。
- 移植細胞数を選択するほど細胞の確保が困難になると予想される。
- 長期継代した細胞は増殖能、分化能が低下することが分かっている。その解決のために、形質転換を生じさせず、分化能を維持した形での寿命延長法の開発が望まれる。■