| 骨髄間質を用いた臓器再生と細胞治療 |
梅澤明弘(現、国立生育医療センター研究所生殖医療研究部長,秦順一 )2000年
- 骨髄は大きく血液細胞とそれを支持する間質細胞からなる。骨髄間質細胞は間葉系の細胞と同じかたちをし,骨髄の中で細網構造をとっている。骨髄間質細胞は、培養により浮遊状態で増殖する血液細胞とは異なり、壁に付着して増殖する。培養そのものは、通常の線維芽細胞と同様で比較的容易である。
- 骨髄間質細胞は成人由来の細胞であり、基本的に「骨髄間質細胞」として分化した細胞である。分化した細胞が別の種類の分化した細胞になる。
- 間質細胞は間葉系由来の細胞であり、いろいろな細胞に分化する。骨髄間質細胞が分化誘導されることにより、骨細胞,心筋細胞,軟骨細胞,腱細胞,脂肪細胞になる。
骨髄間質細胞が心臓になることは、昨年(1999年)の3月に慶應義塾大学の内科と病理が共同で発表した。ここで大事な点は、骨髄細胞はいろいろな細胞になると言っても心筋を初めとする中胚葉由来の細胞になるということだ。
- 例外は、今年(2000年)の5月にサイエンス誌に発表された「骨髄の細胞から肝臓ができる」である。肝臓は内胚葉由来であり、中胚葉から内胚葉の細胞へと胚葉を越えて分化している。この内容は、その意味の重大性からCNNやワシントン・ポストといったマスコミにも紹介された。その論文では、「骨髄細胞」と書いてあるだけで内容を読んでも、肝臓の細胞になるのが骨髄中の血液細胞なのか間質細胞なのかは分からない。いずれにせよ、「肝臓細胞や胆管細胞になる前駆細胞が、骨髄の細胞からできる」と主張している。
- もし、胚葉を越えて分化するとなら骨髄間質細胞が外胚葉由来である神経に分化することができるかもしれないし、そうなれば、脊髄損傷や火傷の患者さんに骨髄間質の細胞治療の可能性が開かれる。事実、間質細胞からグリアができると報告されている。しかし、間質細胞からニューロンができるという報告はない。
- 間質細胞を用いて体を形成する全ての種類の細胞を生み出すという夢がある。しかし、現実的には間質細胞は極めて限られた細胞(すなわち,心臓,骨,脂肪)にしか私達の研究室では、現在のところならない。部分全能性しか示さない。
- 骨髄間質細胞を用いることによる最大の問題点は、現時点でヒトの骨髄間質細胞をさまざまな細胞に分化させることができるかどうかが分からないことだ。昨年(1999年)4月のサイエンス誌にヒトの間質細胞を分化させることができたという論文をオサイリス社が発表したが,私自身はあまり信じていない.論文に記載されているのと同じ方法に従ってみても、マウスの細胞のようには分化してくれない。
- 次の問題点はうまく分化できても治療に使えるくらいまでの細胞数確保できるかだ。細胞治療には、まず目的とする細胞の前駆細胞を間質細胞より作り、前駆細胞は増殖能力を有しているので大量に増やす。その後、増えた細胞を誘導剤を利用して分化させ,生体に戻す。誘導剤を用いることで分化することは、いくつかの種類の細胞で示すことが可能となったが、前駆細胞という状態で増殖させることに関しては分からない。
- 最後は、それぞれの分化形質を完全にコントロールすることができるかどうかである。分化形質を誘導することは可能となったが、それらはたぶんに確率的要素を含んでおり、全ての細胞を目的の細胞にすることまでには、いっていない。
- 骨髄間質細胞は、骨髄中に存在し骨髄穿刺で容易に採取でき、培養技術も確立している。私はここでくり返したいことは、臨床再生医学に用いることができる最も現実的な細胞は骨髄間質細胞である。「再生」という言葉は相応しくないかもしれない、骨髄間質細胞を骨髄の造血を指示する細胞として用いるのではなく、分化誘導させることによって、全く別の細胞に生まれ変わらせるので「細胞治療」という言い方が適切かもしれない。