骨髄間質細胞における選択的誘導法の確立と
神経再生への応用


 「組織再生と機能回復」シンポ、国立身体障害者リハビリテーションセンター主催、2003年12月6日、出澤真理(京都大学大学院医学研究科・生体構造医学講座・機能微細形態学 助教授)

略歴:
平成元年 千葉大学医学部卒業 千葉大学医学部第三内科入局
平成 7年 千葉大学大学院医学研究科博士課程修了 解剖学第二講座 助手
平成 9年 千葉大学医学部眼科学講座 助手
平成12年 横浜市立大学医学部解剖学第一講座 講師
平成15年 京都大学大学院医学研究科生体構造医学講座 助教授 現在に至る



 〔要旨〕

 骨髄間質細胞は採取が容易で培養下にて旺盛に増殖し、倫理的な問題が無い。また、免疫拒絶の無い自家移植系の確立が可能である。

 しかし、骨・軟骨・脂肪組織の他に心筋などへの多分化能があるがゆえに、偶発的な脱分化に頼るのではなく、特定の操作による神経細胞誘導法の技術開発は臨床応用において必須であり、安全で効率的な再生医療の実現につながる。本研究においては神経系の発生分化に関与するNotch遺伝子の導入とサイトカイン刺激を加えることで選択的に神経細胞に分化する方法を見出した。

 ヒトおよびラットの骨髄間質細胞において、Notch細胞内ドメインの遺伝子を導入することによって神経幹細胞様に分化転換する。遺伝子導入された細胞は神経幹細胞に特異的なマーカー(GLAST,3-PGDH,nestin)を発現しpromoter解析においてもそれらの因子の活性が有意に上昇していた。これらの神経幹細胞様に分化転換した細胞にある特定のサイトカイン刺激を与えると96〜98%という非常に効率の高い選択的な神経誘導が引き起こされる。誘導された神経細胞は神経マーカーを発現しておりBrd-U〔標識遺伝子の1つ〕の実験から分裂を終えたpost-mitotic neuron〔分裂後細胞〕であることが確認された。

 またパッチクランプ実験において神経細胞であることが示唆された。RT-PCR,Iuciferaseアッセイ〔法〕、ウェスタンブロット〔共に測定法〕、免疫組織化学の解析を用いて調べた結果、この最終産物にはグリア細胞が一切含まれておらず、神経細胞だけで最終産物が構成されていることが明らかとなった。これらの神経細胞にさらにGDNF〔グリア由来神経栄養因子〕を投与することによってTH‐陽性細胞が40%近くに増加し、パーキンソンモデルラットの線状体〔大脳にあり歩行をコントロール〕に移植したところ、apomorphin〔アポモルヒネ〕誘導の回転運動、pawreaching test〔手足の能力テスト?〕、adjusting step testにおいて顕著な改善を示した。また、脳内でドーパミンを産生し顕著な症状改善を認めた。

 神経細胞は現在のところ、神経幹細胞あるいはES細胞から誘導可能であるが、その多くは神経とグリアの混在系であったり、採取の困難性、倫理問題、免疫拒絶の難題がある。骨髄間質細胞は倫理問題が無く採取が容易なので、本研究のグリアの要素を含まない神経細胞の選択的な誘導と移植によるパーキンソンモデルでの症状改善は神経再生医療への示唆を与えると思われる。
 
 〔注〕ドメイン:領域。Notch(ノッチ):英語で"切れ目"の意。細胞生物の発生にとても重要な分化のon-offを制御する因子。サイトカイン:細胞間相互作用を仲介し、しばしば細胞の成長と分裂を促進する。インターロイキンなど。パッチクランプ実験:細胞膜に直接針を刺すことで、単一細胞のイオンチャネル活動を高精度に測定する。TH‐陽性細胞:サイトカインのサブタイプTh1とTh2の陽性。

BACK