| 骨芽細胞から神経への転換(「最新医学」2002年7月号) |
梅澤 明弘(慶応大学医学部病理学教室)ら
【要旨】 骨髄中に存在する間葉系細胞は、神経系細胞に転換する。間葉系細胞には脂肪細胞、骨芽細胞、軟骨芽細胞が存在する。その中では、脂肪細胞は神経細胞には分化しないが、骨芽細胞は神経細胞へ分化する。この分化には、脱メチル化薬である5−アザシチジンを用いるが、骨形成阻害因薬であるノギンを用いることによっても生じる。
その神経細胞への分化は、形態、神経特異的分子の発現および神経伝達物質に対するカルシウムの流入によって明らかになった。中胚葉由来である骨芽細胞から外胚葉由来のニューロンへの転換が、試験管内で細胞レベルで可能である。
◎ 細胞のメチル化/クロマチン改変に伴う
確率的な分化誘導
- 脱メチル化作用を有する低分子化合物による分化は確率的であり、現在のところ予想できる範囲にない。
- 脱メチル化薬で処理することは、2つの作用がある。
@ 細胞の分化状態を元に戻す(リセットをかける)。
A 細胞の分化に必要な(マスター)転写因子の発現を誘導する。
◎ 脱メチル化薬(5−アザシチジン)による
骨髄間質の神経への細胞転換
- 骨髄中で網目構造をとりギャップ結合〔細胞間結合〕している骨髄由来の間葉系細胞を、10%血清入りの培養液中で増殖させ、5−アザシチジンで4日間処理する(その間、NGF:神経栄養因子をいれておく)。1日でも4日でも神経への分化効率は違わない。その後、NGFが含まれたDMEM/F12/B7培地で30日間培養することで、神経伝達物質(アセチルコリン)に反応する神経細胞が得られる。活動電位は検出されなかった。
- 5−アザシチジン処理後4日目で、長い軸索を持つ神経細胞が得られるが、その発現率は10%以下である。
◎ 発生に基づいた
「骨芽細胞から神経細胞への転換」プロトコール
- 低分子化合物による分化の確率は決して高いものでない。
- 一方、神経発生学の成果より、BMP〔骨形成たんぱく質〕の阻害薬であるノギンによる分化効率には目をみはるものがある。このプロトコールで効率よく神経に分化する細胞は骨芽細胞であった。
- 骨芽細胞を増殖しノギン遺伝子を導入して分化した細胞は、5−アザシチジンの場合とは異なり、驚いたことにニューロンのマーカーは陽性になるが、アストロサイトやオリゴデンドロサイトのマーカーが陽性となる細胞はほとんど認められなかった。活動電位も認められなかった。
◎ 骨芽細胞がニューロンに転換する意味
- 中胚葉由来の細胞が外胚葉由来の細胞〔神経細胞〕に転換できることを試験管内で細胞レベルで明らかにした。細胞の分化が胚葉を越えることがあるということは、従来の概念である「生体外に持ち出しても細胞の形質、分化は安定である」という考えから逸脱している。