| 骨髄間質を用いた臓器再生と細胞治療 (第117回日本医学会シンポ/1998)より |
梅澤明弘(慶応大学医学部病理学助教授)
- 胎児性幹細胞、胎児性癌細胞は多分化能を有している。
- 骨髄由来の間質細胞が心筋細胞、骨細胞、脂肪細胞になることを私は報告してきた。
- これらの分化誘導はわれわれのグループが世界で初めて成功した。
- 骨髄間質は骨髄中に存在し、造血を支持する能力がある。
- 間質細胞の「造血に関する貢献」とは別に、「間質細胞そのものの分化能」を利用し、骨髄間質細胞を細胞治療ならびに臓器再生の供給源として役立てることができる。
- 脱メチル化:骨芽細胞・脂肪細胞・軟骨芽細胞はもともと骨髄間質の初期値(細胞の固有の状態)にあるので、細胞療法に利用する場合は、初期値をリセットする必要がある。細胞の固有の状態を解除するために脱メチル化剤5-azacydineを使用する。
- 神経系への分化誘導には発生学の知識を利用する予定。
- マウス由来骨髄間質細胞:マウス細胞は分裂停止し増殖がとまるまでヒトに比較して限られている。しかし容易に不死化可能なため腫瘍化しておらず、不死化した細胞を得ることで移植系を立ち上げ、十分量の細胞確保が可能である。
* 腫瘍化しないことが重要。腫瘍化した場合、分化効率が落ちる。また移植した場合、腫瘍となり、宿主に不都合となる。
- ヒト由来骨髄間質細胞:マウスのように自然に不死化することはない。SV40 large T 抗原か Polyoma middle T抗原で不死化する細胞が出現するが、同時に腫瘍化し、分化形質を失い、移植先で腫瘍を形成した。〔SV40:がん関連が疑われるパポーバウイルス科に属するDNAウイルス。Polyomaウイルスはパポーウイルス科のポリオーマーウイルス属〕
- ヒト由来骨髄間質細胞の細胞移植:10人以上からの骨髄間質細胞を用いて初期培養したところ、数代で細胞増殖は停止した。細胞は単離した人の年齢に依存し細胞寿命が決められているため異年齢から採取したが、細胞増殖が長くなるとは限らなかった。
- 細胞寿命の延長:脱メチル化処理から分化誘導まで何回か増殖させるので、ヒトの細胞移植を試みる上で細胞寿命を延ばすことが必要である。繊維芽細胞の寿命をテロメレースは延長するとされているので、骨髄間質細胞の寿命が延長することが予想される。
〔テロメレース:線状染色体の両端をテロメアといい、テロメレースは、テロメアDNAの末端に新たにテロメアDNAを合成する酵素〕
- 増殖における液性因子の重要性:ヒト間質細胞の未分化状態を保つことと増殖の維持にbFGF(繊維芽細胞増殖因子)は有効であった。細胞寿命を延長させるわけではないので、明らかに増殖を促進し、短時間で必要な細胞数を得ることを可能にした。
◎ 骨髄間質細胞と他の幹細胞との比較
- ES細胞(胎児性幹細胞):全能性を有し、基本的に胎盤を除くすべての細胞を供与することが可能である。 ただし、各個人のES細胞を簡単に樹立できるか、必要細胞量を確保できるか、疑問。 また特定細胞に分化させ移植先で目的の細胞のみ利用することも難しい可能性あり。
- 胎児組織から得る間葉系細胞:不死化していないが胎児から単離するため増殖停止までの細胞寿命は長く、十分な細胞数を得ることが可能である。腫瘍化もしていないため分化化誘導も比較的容易。問題は倫理面と中胚葉系の細胞のみの分化能。間葉系細胞〔中胚葉系細胞〕を増殖させるので中胚葉以外の細胞を得にくいという欠点がある〔神経系は胚体外胚葉から生じる〕。
- 成人組織細胞:分化しきった細胞であり、形成能および分化は最も優れている。ただし、成人から得られた成熟細胞は、骨髄間質以上に細胞寿命が短くほとんど増殖しないため、目的の細胞数を得ることが難しい。
*「どんな細胞が細胞治療に利用できるか」という根源的な疑問が存在する。骨髄間質細胞は骨髄中に存在し骨髄穿刺で容易に採取でき、培養技術が確立している。臨床再生医学に用いることができる最も現実的な細胞の1つとして骨髄間質細胞がある。
◎ 質疑応答から
梅澤:骨芽細胞を生体内に注入すると2日で生体内に骨を作る。しかし、脱メチル化剤5-azacydineを処理してトリックを使うと、神経に転換できると考えている。
Q:細胞の分化の方向は決まっているのか。
梅澤:10種類以上の細胞を使っていて、その中に間葉系細胞と思っている細胞があるが、その細胞を完全にコントロールしているわけではない。心臓に打った場合、骨や神経ができたことはない。しかし、脾臓に注入し肝臓を作ろうとした際、脾臓の中が骨だらけになったことがある。