Masayoshi Ohta、 Yoshihisa Suzuki(鈴木義久) Toru Noda 、Yoko Ejiri 、Mari
Dezawa 、Kazuya Kataoka、 Hirotomi Chou、 Namiko Ishikawa、 Naoya Matsumoto、
Ysushi Iwashita、Eiji Mizuta、 Sadako Kuno 、Chizuka Ide(井出千束)
京都大学大学院医学部形成外科、 京都大学大学院医学部解剖学、神経生物学
国立療養所宇多野病院整形外科、神経内科、臨床研究センター
抄 録
骨髄間質細胞(BMSC)が、損傷した脊髄の修復と行動改善に及ぼす効果を、ラットを用いて検討した。ラットの脊髄T8-9レベルに錘を落下させて脊髄挫傷を負わせ、同系統ラットの骨髄から採取した骨髄間質細胞(BMSC)をその第4脳室から脳脊髄液(CSF)に注入した。骨髄間質細胞は脳脊髄を介して脊髄に運ばれて、大部分は脊髄表面に付着したが、少数のものが病変部位に侵入した。
骨髄間質細胞の移植を受けたラットは、対照群のラットよりもBBBスコア(行動改善評価)が高く損傷部の空洞体積は小さかった。移植した細胞は徐々にその数が減少し注入後3週間で脊髄から消失した。骨髄間質細胞注入2日後のラットから採取した脳脊髄液を加えた培地(3mlの培地中脳脊髄液が250
μl)では、ニューロスフェア細胞〔神経前駆細胞〕が培養皿に付着し周辺に拡散する〔突起が伸びてゆく〕のが促進されたこれらの結果は、骨髄間質細胞が栄養因子を脳脊髄液中に産生することによってか、あるいは宿主の脊髄組織と接触することによって、空洞の縮小とラットの行動機能の改善に効果を及ぼし得ることを示唆している。骨髄間質細胞を自家移植に使用できること、移植材料の脳脊髄液への注入が患者に与える負担は小さいものであることを考慮すれば、本研究の結果は、脊髄損傷治療における骨髄間質細胞の臨床応用が重要でありかつ有望であることを示すものである。
キーワード:骨髄間質細胞、脊髄損傷、細胞移植、脳脊髄液、運動機能改善
〔注:本論稿原文では、骨髄間質細胞の表記として、Bone marrow stromal cells
の略語のBMSCsが使用され、MSC(=mesenchymal stem cell間葉系幹細胞)と概念的に区別されているようである。しかし、一方、MSCがmarrow
stromal cellsの略語として、骨髄間質細胞と同義の略語として使用されていると思われる文節が多々あった。翻訳に当たっては、BMSCsを単に「骨髄間質細胞」、MSCが骨髄間質細胞を意味していると考えられる場合は、「骨髄間質細胞(MSC)」と表記し、MSCが間葉系幹細胞を意味していると考えられる場合は、「間葉系幹細胞(MSC)」と表記した。原文見出しには番号はないが、分りやすくするため、各章タイトルに番号を付した。なお、簡単な注記や補語を〔 〕内に記入した。〕
1. 緒 言
現在、細胞移植は脊髄損傷修復の最も効果的な方法であると考えられている。これまでにシュワン細胞、胎児の(embryonic)脊髄(20)、嗅神経鞘細胞(12)、マクロファージ(25,44)、脈絡叢上皮細胞および神経幹細胞(36)を含む数種類の細胞が脊髄再生の移植材料として使用されている。これらの細胞のうち、胎児の(embryonic)神経幹細胞が最も精力的に研究されている(23, 28)。〔日本語では、9週以後の胚=胎児も胚と呼ばれることがあるので、文脈上ここではembryonic“胚の”を“胎児の”と訳した〕。しかし倫理上の問題から、ヒトの胎児組織を治療法の実際的なソースとして今直ちに使用することは困難である。
Pittengerらは、骨髄由来の間葉系幹細胞(MSC)が骨細胞、軟骨細胞および脂肪細胞に分化することを報告している(40)。また、骨髄由来の成体多能性前駆細胞(MAPC)は、骨髄細胞全体の約0.125%を構成し(6)、特定の実験条件の下で(17,43,57)、骨細胞、脂肪細胞、軟骨細胞(41)、骨格筋線維(15)、心筋細胞(37)、肝細胞(39)、神経細胞(47)および肺・腸管上皮細胞を含む数種類の細胞に分化し得る多能性幹細胞である、との報告がある。最近では、骨髄由来の細胞がin vivo(生体内、動物実験) (14,22,24) およびin vitro(生体外、試験管内) (10,48,53) の双方でニューロンやアストロサイトのような神経系へ分化する能力を有するという報告がなされている。これらは、細胞移植の実際的見地からみた骨髄由来非造血細胞の極めて重要な性質である。骨髄由来の非造血細胞が自家細胞移植の移植物質として容易に使用しうるからである。
骨髄間質細胞は、骨髄穿刺液の培養において培養皿に付着する細胞であり、間葉系幹細胞(MSC)や成体多能性前駆細胞(MAPC)ほど均質ではないが、〔動物実験で〕損傷した脊髄(8,17)や脳の(7,27,29,32,47,58)治療のためにすでに使用されてきた。最近の我々が行った研究では、病変部位への直接注入による骨髄間質細胞の移植が損傷部位の空洞の大きさを縮小し、損傷した脊髄の組織修復を促進する可能性がある、という示唆を得た(57)。移植した骨髄間質細胞が神経細胞に分化するとの証拠はない。上述の移植した骨髄間質細胞が組織修復に及ぼす効果は、骨髄間質細胞から何らかの栄養因子が放出され、組織修復を促進することを示唆する(30,50,51,52,58)。
前回の研究では、ラットの第4脳室に注入することによって脳脊髄液を介して神経幹細胞を移植する新手法について報告した。注入した細胞は脳脊髄液を経由して運ばれ、損傷部位に侵入して宿主組織に組み込まれた。細胞の病変部位への直接局所注入が脊髄に追加的損傷を与えるリスクがあることを考慮すれば、脳脊髄を介しての注入は宿主組織に与えるダメージを最小限にとどめる有望な方法であるとみなされる。
本研究においては、ラットをもちいて、脳脊髄液を介して移植した骨髄間質細胞が損傷した脊髄の修復に及ぼす効果を検討した。前回の実験で我々は、骨髄間質細胞を脊髄の病変部位に直接移植し、移植した骨髄間質細胞が空洞形成を抑制してラットの行動回復をいくらか促進することが示した。本研究は、脳脊髄液を介して投与した骨髄間質細胞が損傷した脊髄の組織修復とラットの行動回復に有益な効果を及ぼすかどうかを調べるために実施した。脊髄表面と病変部位内部への骨髄間質細胞の分布状況を、第4脳室から細胞注入後5週間までの期間で調べた。行動改善程度の評価はBBB スコアによった。組織検査は、空洞の大きさの縮小という観点からの病変部位の組織修復に焦点を絞って検討した。さらに、in vitro(試験管内)〔培養〕実験で、2日前に第4脳室を通じて骨髄間質細胞を注入したラットから得た脳脊髄液が、脊髄由来および海馬由来のニューロスフェア細胞に対して、培養皿に付着し突起を伸長させるよう影響を及ぼすことを示した。
2.材料および方法
骨髄間質細胞(BMSC)の分離
骨髄は、緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現する8週齢のSprague-Dawley(SD)系トランスジェニック〔遺伝子操作された〕雄ラット(19、35、大阪大学遺伝情報実験センター Genome Information Research Center のもの)および8週齢のWistar系野生型雄ラットから無菌の状態で分離した。トランスジェニックラットのほとんどすべての組織は励起光の下で緑色である(33)。骨髄からの骨髄間質細胞の分離はAziziらが記述した方法に従って行った(1)。ドナーのラットを、過量のペントバルビタールを投与して屠殺し、その脛骨と大腿骨を摘出した。付着筋肉を削り落とした後、骨の両端を切り離し、骨髄は25G針を使用して5 μlのMEM(イーグル培養液)(Sigma社製)で洗い出した。採取した骨髄組織は、ピペットで吸引と噴出を繰り返して単離し、100μmメッシュのナイロン製細胞濾過器で濾過した。懸濁液は5分間800rpmで遠心分離し、上清は捨てた。得られた骨髄はα-MEM 10 mlで懸濁し、15%のウシ胎仔血清(FBS)、2 mlのグルタミン、ペニシリン(100U/ml, GIBCO社製)およびストレプトマイシン(100μg/ml、GIBCO社製)を加えたα-MEMで培養した。48時間後、非接着細胞は培地を取り替えて除去した。接着細胞が細胞集落を形成したら、細胞集落を、0.25%トリプシンおよlmMEDTA(GIBCO社製)を含む懸濁液で5分間37℃の条件下でインキュベートして取り出し、6000 cells/cm2の密度で継代培養した。骨髄間質細胞は、このようにして4回継代培養した。
先ず、トランスジェニックSD系ラットをドナーとして使用した。SD系ラットは同系繁殖系ではないので、骨髄間質細胞の移植のために免疫抑制剤(FK506, 藤沢薬品製)を使用した。免疫抑制剤の使用の有無にかかわらず、結果には相違はなかった。次に、Wistar系ラットを同系繁殖系として使用した。GFP-トランスジェニックWistar系ラットが入手できなかったので、GFP-レトロウィルスでトランスフェクション〔細胞感染での遺伝子導入〕した骨髄間質細胞を移植材料として使用した。結果はSD系ラット使用の場合と同じであった。
レトロウイルスによる標識
Wistar系ラットの骨髄間質細胞に標識をつけるためにGFP-レトロウイルスでトランスフェクションを行った。レトロウイルスベクター
pBabe-neo はR. A. Weinberg博士(マサチューセッツ工科大学、生物学部)のご好意により提供していただいた。pFGFP-C1(Clontech社製、米)から得た緑色蛍光タンパク質(GFP)のEco47
V-SalTをコードするcDNA断片を、pBabe-neoベクターのSna BI-SalTサイトに挿入した。ついで、PT67両栄養性ウィルスパッケージング細胞株(ATCC社製、米)に、LipofectAMINE
2000(GiboBRL社製、米)を用いて、このpBabe-EGFPのプラスミドのトランスフェクションを行ない、G418で10日間かけて細胞の選択を行った。このウイルスを含む培養液で培養中の骨髄間質細胞(MSC)に〔GFP発現ウィルスを〕感染させた。上述のようにして、移植材料としてのGFPを発現する骨髄間質細胞(MSC)(GFP-MSC)を得た(11)。
脊髄および海馬の組織由来のニューロスフェア
Sprague-Dawley (SD) 系ラットの脊髄およびWister系ラットの海馬から採取した組織を以前に我々が著述した方法と同様のやりかたで培養した。要約すると、SD系ラットの胎生14日の胎児から脊髄組織を、Wister系ラットの胎生16日の胎児から海馬組織を取りだし、組織を機械的に単一細胞にばらばらに分離した後、合成培養液のダルベッコ修正イーグル培地/ハムF12培地(DMEM/F12、混合比
1:1, GIBCO社製)で5 × 105 cells/mlの細胞密度で培養した。培養液の補充には、培養用サプルメント
B27(2 ml/100 ml, GIBCO社製)及び追加併用で遺伝子組換えヒト塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF,
20 μg/ml, PEPRO TECH社製)、ペニシリン(100 U/ml, GIBCO社製)およびストレプトマイシン(100
μg/ml, GIBCO社製)を用いた。3〜5日培養後、脊髄と海馬の組織培養の双方でニューロスフェア〔球形の細胞塊、神経前駆細胞〕が形成された。2〜3代継代後、ニューロスフェアを800g〔恐らくrpm〕で5分間遠心し、移植に使用した。
脊髄損傷と骨髄間質細胞(BMSCs)移植
動物実験は、全て京都大学の動物実験マニュアルに従って行った。ペントバルビタールナトリウム(50mg/kg, ip)を用いて麻酔下におき、胸髄中位レベル(T8-9)で椎弓切除術を行った。NYU重量落下装置〔NYU Spinal Cord Contusion System, NY、ニューヨーク大学方式の脊髄損傷動物モデルを作るシステム〕(7)を用いて、標準的な挫傷状態を作り出した。露出させた脊髄に向けて、直径2 mm、重量10 gの金属棒を、高さ12.5cmから(軽度挫傷のケース)および25cmから(重度挫傷のケース)、落下させ、挫傷状態にした。〔これらのラットに、上記のようにして準備した骨髄間質細胞を〕まず、大槽を通じて注入しようとしたが、制御が難しいため、注入の際に脳骨髄液(CSF)が漏れてしまった。そこで、第4脳室から注入することにした。実験の前に、トルイジンブルーを注入し、第4脳室内のみへの注入を確認出来るようにした。脳室組織および周囲には損傷は無かった(2, 52, 53)。脳室に注入するに当たって、頭蓋正中のラムダ縫合尾側3.5mmの部位に直径1mmの穴をドリルで開けた。この穴から注射針を深さ6mm挿入し、GFPトランスジェニックラット由来の成育可能骨髄間質細胞(MSCS)を約5×106個含んだPBS溶液50μLを、インスリンシリンジを用いて定位目盛りで5分以上かけてゆっくりと第4脳室に注入した。対照群のラットには、同様の方法で脊髄挫傷状態を作り、PBS溶液を同量注入した。
レシピエントとして使用したSD系ラットは、合計54匹、4週齢、体重70〜90gであった。全ラットに金属製の棒を12.5cmの高さから落下させ、脊髄に挫傷状態を作りだした。36匹に骨髄間質細胞を移植し、残りの18匹を対照群とした。移植する36匹を更に18匹ずつ、免疫抑制剤で治療する群と治療しない群の2群に分けた。移植後4、7、14、21、28、35日目にそれぞれ3匹ずつ、0.1Mリン酸緩衝液中4%のホルムアルデヒドを含有する固定液を経心臓で灌流させて屠殺した(表1)。これらのラットを用いて〔脊髄の組織標本を作製し〕、GFP標識細胞が視覚的に示す移植位置を全組織標本で観察した。
一方、レシピエントとして使用したWister系ラットは合計62匹、4週齢、体重70〜90gであった。そのうち30匹に病変部の組織検査および免疫組織化学検査を行った。この30匹のうち、15匹は軽度挫傷(12.5mmから錘落下)で、残り15匹は重度挫傷(25.0mmから錘落下)であった。細胞移植後の2日目および1、2、3、4週目で、それぞれ3匹ずつ屠殺した。さらに、軽度挫傷16匹、重度挫傷16匹の合計32匹のラットで機能評価を行い、後に〔屠殺して〕空洞の大きさを計測した。細胞移植から5週間後に4つのグループごとにそれぞれ8匹ずつ屠殺した(表 1)。
表1.実験に用いたラットの数
〔Wister系ラットの移植用〕骨髄間質細胞はレトロウィルスベクターで標識した上、脳脊髄液(CSF)に上記と同じ方法で注入した。細胞密度は約5×106cells/50mlであった。
組織標本の作製
実験動物に対して、ペントバルビタールナトリウム(100mg/kg)を腹腔内に注入して深い麻酔下におき、0.1M、pH
7.4、50mlのリン酸緩衝液を用いて、ついで、0.1M、pH 7.4、400mlの低温のパラホルムアルデヒド4%液を用いて経心臓的に灌流を行って屠殺した。その病変部位を隣接する無傷の部位を含めて切除して、同固定液に更に3時間浸し、一連のスクロース(ショ糖溶液、0.02M
PBS中に10、15、20%含有のそれぞれに)に漬けて4℃で2日間凍結保護を行なった。そしてクリオスタットで縦断的に切断して10μm切片標本を作り、免疫組織化学的染色をした後、スライドグラスにのせ、組織学的観察を行った。
組織化学
脊髄に移植したGFP標識された細胞の位置を視覚的に明らかにするために、移植細胞のGFPをHRP〔西洋わさびペルオキシターゼ〕反応物に転換する免疫組織化学的な処理を行った。この転換により光学顕微鏡を使い、脊髄の全組織標本でGFP標識細胞を観察することが可能になった。
内因性のペルオキシターゼを5%の過酸化水素で失活させた後、標本にTriton X-100(Sigma社製) 0.1%含有のPBS溶液を浸透させ、0.1%BSA含有のPBS溶液で免疫ブロックした。その後、標本は、第一抗体、続いて、第二抗体と4℃で一晩反応させた。第一抗体は、400倍希釈のウサギ抗緑色蛍光タンパク質(GFP)ポリクリナール抗体(Chemical International Temcula社製、米)である。第二抗体は、100倍希釈のHRPを結合した100倍希釈のヤギ由来ウサギIgG(MBL社製、日本)のFabフラグメントである。この標本は、ダルベッコ社製リン酸緩衝液で洗浄後、0.1Mのリン酸緩衝液中グルタールアルデヒド0.1%を含む固定液で10分間固定した。洗浄後、標本を0.05% 3,3'-ジアミノベンジジンテトラヒドロクロリド(3,3`-diaminobenzidine tetrahydrochloride) (DAB、DojinDo製、日本)と0.1%過酸化水素を含むPBS溶液で反応させ、解剖顕微鏡で観察した。
組織標本作製と免疫組織化学検査の方法は、我々が既に報告しているものと同様である(51)。用いた第一抗体と希釈については、次の通りであった。グリア線維酸性タンパクに対してのマウスモノクローナル抗体(GFAP、Sigma社製、米)は200倍希釈、オリゴデントロサイト(希突起神経膠細胞)のマーカーとしての抗体Ripは400倍希釈(マウスモノクローナル抗体、Iowa Hybridoma Bank製、米)、βチューブリン対するマウスモノクローナル抗体V型 (Sigma社製)は300倍希釈であった。また、第二抗体と希釈については、次の通りであった。Alexa Fluorフラグメントを結合したヤギ由来マウス抗体 (Molecular Probes社製、米)は1000倍希釈、FITC (Jackson. Immunoresearch社製)は800倍希釈であった。染色された切片は、共焦点走査レーザー顕微鏡 (Radiance 2000、Bio-Rad社製○R、英) を使用して観察した。
電子顕微鏡
GFP陽性の細胞を電子顕微鏡で観察するために、10μmクリオスタット切片に、前述と同様の方法で、ペリオキシターゼ免疫染色の処理をおこなった。DAB反応の後、切片をさらに、1%のOsO4(四酸化オスミウム)を含むpH7.4のPIPES緩衝液でポスト固定し、特級エタノールで脱水して、最後にエポキシ樹脂に包埋した。極薄の切片をUltrotomeV(LKB社製、スウェーデン)で切断して作成し、従来型80KVの電子顕微鏡(JEM 1200EX、JEOL社製、日本)で観察した。厚めのエポン切片(1μm)は国立生理学研究所(岡崎市)の1000KV高圧電子顕微鏡(H1250 M、日立社製、日本)で観察した。
運動機能評価
動物は、室温20〜25℃で適度の湿度に保たれた部屋で注意深く飼われた。膀胱は、第一週目は一日に5回、その後は一日に2回、人の手によって排尿されて空にされた。機能評価は、オープン・フィールドBBBスコアリングシステム〔後肢運動機能の評価法の1つ、Basso-Beattie-Bresnahan
Locomotor法〕(3、4)を用いて実施した。オープン・フィールド(75×120cm)で、二人の研究者が動物の運動機能を観察した。術後最初の1週間、0(完全麻痺)から21(通常の歩行能力)までの評価でスコアを記録した。その後、週に3回、5週間まで記録をとった。有意の差はMann-Whitney
U testを用い、P<0.05かどうかで調べられた。全ての数値は、平均値±SEM(標準誤差)で示した。
空洞の体積の測定
空洞の体積の測定においては、術後5週の32匹のラットを用いた。クリオスタット水平切片をヘマトキシリン‐エオジン(HE)で染色し、CCD-カメラ(HC300、富士フィルム社製、日本)(46)を装備したライトのついた顕微鏡で調べた。50μmの間隔をおいて連続した切片について、脊髄内空洞領域を分析プログラム“NIH Image 1.61”で計測した。次いで、空洞体積は、調べた切片の〔面積に〕平均深度を乗じることで算出した(49)。t 検定による、P<0.05の数値を統計的に有意と考えた。
骨髄間質細胞(MSC)を注入した脳脊髄液のニューロスフェアの培養に対する効果
骨髄間質細胞(MSC)を注入したラットから得た脳脊髄液のニューロスフェアに対する効果を調べるために、4週齢、70〜90gのSD系及びWistar系ラットを全部で40匹用いた。全てのラットに対して、脊髄に12.5mm上から金属棒を落とし、坐滅型脊髄損傷を与えた。20匹のラット(SD系、Wistar系、それぞれ10匹ずつ)に骨髄間質細胞(MSC)を注入した。各ラットに対して、細胞懸濁液(PBS緩衝液25μl中5×106の細胞含有)を第四脳室に注入した。残りの20匹を対照群として、同量のPBSを注入した。注入から2日後、脳脊髄液をインスリン・シリンジで大槽から採取して集め、ニューロスフェア細胞の培養皿への付着と分化に対する影響を調べるために用いた。ニューロスフェアを無血清培養液の中で被覆されない6枚の培養皿で平板培養した。ニューロスフェアは、通例、培養槽に入れられた後3〜5日は浮遊状態にある。ニューロスフェアが浮遊している各培養槽の培養液(3ml)に、〔骨髄間質細胞を注入したラットの〕脳脊髄液250μlを加えた。〔その結果〕ニューロスフェアが変化し、培養皿へ付着して細胞突起の伸張も含む分化が起きることが、位相差顕微鏡を用いて観察された。
3.結果
骨髄間質細胞の脊髄表面への付着と脊髄病変部への侵入
骨髄間質細胞注入の4日後〔の標本で〕、GFP陽性細胞がDABで染色された脊髄の表面上に、褐色の細い線状の細胞集落が認められた。この様な細胞集落の細い線状の塊は、特に頸髄と胸髄および脊髄の病変部で最も多く認められた。これらの塊(群)は、背側より腹側でいくらか大きくなる傾向があった。これらの細胞集落のなす線条は注入から7日までは、数を増し(図1A、1B)、それ以後は時間とともに徐々に減少し、注入3週間までに消失した(図1C、1D)。
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| 図1. 骨髄間質細胞注入ラットの脊髄の全体図。緑色蛍光発色蛋白質(GFP)がHRP‐DAB染色処理されて視覚化されている。実験動物は12.5mmから錘を落とし受傷させた。(A)細胞注入後。脊髄全体図は、腹面が示されている。DAB染色細胞はひも状にはっきり見える(矢印)。(B−E)細胞注入後1〜3週の脊髄背面の拡大図。細胞注入1週間後、ひも状DAB染色細胞は高位頸髄部分(B、矢印)と病変部の上の部分に見られた(C、矢印)。(D−E)細胞注入3週間後の脊髄背面。DAB染色細胞は高位頸髄や病変部表面にはもはや見られない。A〜Eのスケールバーは2mm。 |
この所見は、脊髄の上で細胞集落のサイズが徐々に大きさを増していくという、〔以前の研究で〕ニューロスフェア細胞〔神経幹細胞〕を注入した場合の所見とは異なっている(2)。線状の細胞集落の同様のパターンは、無傷の脊髄に細胞を注入した場合でもみられる。
損傷部を見てみると、注入2日後に、少数のGFP陽性骨髄間質細胞が病巣の境界部で認められた。これらの細胞は幾つかの細い細胞突起で脊髄本体と繋がっているようにみえた。病変部では殆どの場合、様々なサイズの空洞が形成されていた。GFP陽性骨髄間質細胞は、注入後1ー2週間病変部にとどまっていた(図2A、2B)が、注入3週後には、脊髄表面に付着した状態ではもはや認められなかった。
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| 図2. 脊髄の病変部内に移植された骨髄間質細胞(MSC)の免疫組織化学。A〜Dにおいて、宿主脊髄組織はチューブリン(赤)で染色されている。低倍率で示したGFP陽性細胞(緑色)は注入後2週間、病変部に留まっていた。(B)図Aの骨髄間質細胞を高倍率で示したもの。骨髄間質細胞は、細い突起を伸ばし、宿主細胞に組み込まれている。(C〜D)移植された骨髄間質細胞(緑色)もまた神経根(C)と脊髄表面近くの髄内(D)に付着した。スケールバーはAが1mm、B〜Dが240μm。 |
免疫抑制剤を投与したSDラットから得た遺伝子導入骨髄間質細胞も、投与しなかったSDラットから得た遺伝子導入骨髄間質細胞も、ウイスターラットから得たレトロウイルスを組み込んだ骨髄間質細胞も、術後3週間までには移植されたラットの脊髄から消失していた。免疫組織化学検査では、in
vivoで(動物生体内で)骨髄間質細胞がアストロサイトやオリゴデンドロサイト、ニューロンに分化したことを示す所見はなかった。電子顕微鏡による観察所見では、GFP陽性細胞が、電子密度の高い細胞として同定され、それらは脊髄の白質と灰白質に組み込まれていた(図3A、図3B)。
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| 図3.(A)細胞注入2週間後の脊髄病変部内のDAB染色された骨髄間質細胞。図Aの骨髄間質細胞を高圧免疫電子顕微鏡写真でみたもの。 |
時間の経過と共に、細い細胞突起を有するGFP陽性細胞は、すでに述べたように空洞の辺縁に局在するようになった。
病変部位での空洞の縮小
骨髄間質細胞(MSC)注入ラットの脊髄における空洞は、12.5 mmからの金属棒落下ケース(図4A、図4B)と25mmからの落下ケース(図4C、図4D)のいずれの損傷の場合も、対照群に比較して小さかった。
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図4. 空洞形成は骨髄間質細胞を移植した脊髄で縮小した。骨髄間質細胞注入5週間後の代表例を示す。
(A、B)12.5mmの高さから錘を落として脊髄を損傷させたもの。脊髄の空洞は対照群(B)に比べ骨髄間質細胞を移植したラット(A)の方がはるかに小さい。25.0mmの高さから錘を落として脊髄を損傷させたもの。(C、D)脊髄の空洞は対照群(D)に比べ骨髄間質細胞を移植したラット(C)の方がはるかに小さい。 |
12.5-mm損傷の場合、骨髄間質細胞(MSC)注入ラットでは空洞の体積は、平均11.8mm3
であり、対照群では、平均22.2mm3であった(図5A)。
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| 図5. 図は細胞注入5週後の骨髄間質細胞移植群と対照群の空洞の大きさの差異を示す。12.5mmの高さから錘を落として脊髄を損傷させた場合(対照群8匹、骨髄間質細胞注入群8匹)(A)と25.0mmの高さから錘を落として脊髄を損傷させた場合(対照群8匹、骨髄間質細胞注入群8匹)(B)である。空洞の大きさは、骨髄移植ラットと対照群のラットで有意差を示した(P<0.05)。 |
同様に25mm損傷ラットの骨髄間質細胞(MSCs)注入の場合は、18.3mm 、対照群では34.1mm
であることを示した(図5B)。この空洞体積値は、骨髄間質細胞移植群と対照群の間に有意の差があることを認めるものである(T検定)。免疫組織化学検査では、空洞の壁は主として、GFAP陽性のアストロサイトで占められていた(図6A、6B)。
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図6. 移植5週後の骨髄間質細胞移植群と対照群における空洞が生じた脊髄の免疫組織化学的所見。実験動物に25.0mmの高さから錘を落とし脊髄損傷を負わせた。脊髄はGFAP(緑)とチューブリン(赤)で二重染色された。(A、B)低倍率の顕微鏡で骨髄間質細胞移植群の脊髄(A)と対照群の脊髄(B)を観察したもの。空洞の辺縁は、A、BともにGFAP染色アストロサイトで区分けされていた。赤く染色されたニューロンの成分が、対照群に比較して骨髄間質細胞移植群において明確に識別された。
(C、D)A、Bのボックスで囲まれた空洞部分を、それぞれC、Dに拡大したものである。チューブリン染色されたニューロンの成分は、脊髄の空洞に近い部位で非常に多く見出された(D)。骨髄間質細胞移植ラットのケース(C)のスケールバーは1mm。一方、A〜Dの対照群の脊髄には〔チューブリン染色細胞は〕まばらであった。 |
また、βチューブリン陽性神経エレメントが、骨髄間質細胞(MSC)移植ラットの空洞周囲に比較的多く存在し(図6C)、対照群ではごく少数しか存在しなかった(図6D)。Rip陽性のオリゴデンドロサイトの場合は、骨髄間質細胞移植ラットと対照群との間に差がなかった(データ不掲示)。
運動機能の評価
ラットのBBB運動機能スコアは、〔骨髄間質細胞〕注入後1日目と1、2、3、4、5週目に評価した。正常ラットの最高スコアは21である。脊髄損傷ラットの最初の値は8以下であった。12.5mm上から金属棒落下の損傷
ラットの場合、骨髄間質細胞(MSC)注入ラットで、歩行機能は対照群より良好で、損傷後5週目での、BBBスコアは平均13.875±3.0であった。対照群では5週後の値が平均値10.1±2.1であった。骨髄間質細胞注入ラットでは、調べられたすべての時点で対照群に比してBBBスコアの有意の改善を示した(P<0.05)。
25-mm上より金属棒落下の損傷ラットでは、対照群のBBBスコア値が5週目の時点で8±0であったのに対し、骨髄間質細胞(MSC)注入ラットでは、10.28±2.98であった。これは統計学的に有意の差であった(P<0.05)。従って、骨髄間質細胞の注入が、12.5mmおよび25.0mmでの損傷ラットにおいて共に、BBBスコアの有意の改善をもたらしたのである(図7)。
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| 図7. BBBスコアによって運動能力を分析したグラフ。12.5mmの高さから錘を落とし実験動物に脊髄損傷を負わせた場合(対照群8匹、骨髄間質細胞注入群8匹)(A)と25.0mmの高さから錘を落として脊髄を損傷させた場合(対照群8匹、骨髄間質細胞注入群8匹)(B)。BBBスコアは、骨髄間質細胞注入ラットが、Aにおいては常に、Bにおいては注入5週後おいて有意に高かった(P<0.05)。 |
骨髄間質細胞(BMSCs)を注入された脳脊髄液がニューロスフェア培養に及ぼす効果
脊髄や海馬から得られた〔神経幹〕細胞は、3日以上経つと、培養液の中でニューロスフェア〔球形の細胞塊、神経前駆細胞〕を形成する。これらのニューロスフェアは、培養液のなかで細胞突起も出さず未分化の状態で浮遊している。2日前に骨髄間質細胞が注入された脳脊髄液を〔培養槽に〕加えると、ニューロスフェアは〔培養槽のなかで〕トル培養皿の底に付着し、周辺辺縁に向かって細胞突起を伸ばし始める。海馬、脊髄両者由来のニューロスフェアともに同様の傾向を示した(図8B、図8D)。
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図8. 骨髄間質細胞を注入された脳脊髄液の、ニューロスフェア細胞の培養皿への付着と突起伸張への効果を生体外実験で調べた。海馬由来のニューロスフェア(A、B)と脊髄由来のニューロスフェア(C、D)が実験に用いられた。対照群(A、C)では、ニューロスフェアは培養液の中で浮遊していた。骨髄間質細胞を注入された脳脊髄液が補充された培養液の中では、ニューロスフェアは培養皿に付着し、細胞が周辺に向かって伸張した。
A〜Dのスケールバーは60μm。 |
一方対照群のラットからの脳脊髄液を加えてもこうした作用を引き起こさなかった(図8A、図8C)。また、こうした効果は、注入5週目のラットからの脳脊髄液でも認められなかった。このことは、骨髄間質細胞を注入した脳脊髄液中では、1〜2週の間に何らかの栄養物質が生成され、その後次第にその栄養因子の効果は減少し、5週目にはゼロになるのかもしれない。
4.考 察
今回の研究は、第4脳室からの骨髄間質細胞注入が、ラットの損傷した脊髄の空洞を縮小し、運動機能を改善させうることを示した。注入された骨髄間質細胞は、脊髄の表面に付着し、同時に脊髄の病変部にもいくらか侵入した。しかし、いずれも注入3週間までに消失した。おそらく、骨髄間質細胞は、脳脊髄液内に何らかの病変部の修復に有効な物質を産生し、結果として、ラットの空洞体積を縮小させていると思われる。2日前に骨髄間質細胞を注入されたラットから得た脳脊髄液が、生体外で(試験管内で、培養槽内で)ニューロスフェア細胞の付着と分化を増強させるという実験所見も、同様に何らかの栄養物質が骨髄間質細胞から脊髄液内に放出されたことを示唆している。免疫組織化学検査の結果では、骨髄間質細胞は宿主の組織内に神経系細胞を分化させてはいない。骨髄間質細胞が注入後3週間で消失していることを考えると、上記の所見は、骨髄間質細胞自体が損傷した脊髄の修復にその構成要素として関わっているのではなく、脊髄組織を修復する何らかの修復促進因子の供給源として関与していることを示唆している。
骨髄間質細胞(BMSCs)の効果
今回の研究では、脳脊髄液中に注入された骨髄間質細胞はニューロンやグリア細胞に分化はしなかったが、ラットの運動機能の改善と損傷した脊髄の組織修復をもたらした。われわれは以前の研究で、骨髄間質細胞の脊髄病変部への局所的直接注入が同様にラットの機能回復を促進することを示した(8、17、57)。
骨髄間質細胞を移植されたラットでみられる機能の改善は、骨髄間質細胞が損傷組織に融合する事によるのではなく、ニューロンやアストロサイトなどの神経組織に有効な、何らかの栄養物質の産生することによるものと思われる(5、30)。骨髄間質細胞は、コロニー刺激因子(CSF-1)などのサイトカイン、インターロイキン、幹細胞因子(13、31)、NGF、BDNF、HGF、VEGF(58)を分泌する。また、骨髄間質細胞が、グリア細胞を刺激して、BDNF、NGF(30、31、50)などの神経栄養因子を放出させるという報告もある。我々は、以前の研究で、骨髄間質細胞が、共培養に付した脊髄と海馬由来のニューロスフェアの培養皿への付着、分化、増殖に対して顕著な効果を有することを示した(57)。今回の研究では、2日前に骨髄間質細胞を注入したラットから得た脳脊髄液が、ニューロスフェアに対して同様の効果を有することを示した。病巣内と脊髄の表面に付着した骨髄間質細胞が脳脊髄液内に何らかの栄養因子を放出することにより、この効果が現われた可能性がある。更に、病変部内の骨髄間質細胞が、宿主の脊髄組織に接触することにより、直接的な影響を及ぼした可能性もある。損傷した脊髄内の空洞の縮小は、病巣部でのグリア細胞の回復と増殖および軸索の伸長の結果かもしれない。今のところ、どのような種類の栄養物質がこうした現象を引き起こしているのか不明だが、この効果は、おそらく一つの特殊な因子ではなく、多くの因子が同時に作用していると思われる。
骨髄間質細胞(BMSCs)の脳脊髄液を介しての移植とその後の結果
今までのところ、細胞移植は局所的に損傷した脊髄に直接注入することによって実施されている。そのような局所への直接的な細胞移植は、損傷した脊髄を覆う脊椎を取り除く手術を加えなければならない。針を使用して脊髄へ直接注入することは、脊髄への追加的な損傷を加える危険性がある。われわれは前回の研究で、第4脳室から神経幹細胞を移植する方法を報告した(2)。今回の研究では、第4脳室から注入した骨髄間質細胞が、注入2日で脳脊髄液を介して分散し、その一部は頸髄から仙髄の表面の軟膜に付着した。軟膜に付着した骨髄間質細胞が神経幹細胞として増殖するのは認められていない。脊髄の腹側面と背側面での細胞群の分布とサイズに違いが生ずるのは恐らくラットの姿勢に原因があると思われる(2)。骨髄間質細胞は神経幹細胞と同様に、損傷を受けた軟膜を通って脊髄の病変部に侵入出来る。注入後5週間までに関して調べた限りでは、正常の軟膜を貫いて脊髄組織に侵入した骨髄間質細胞はなかった。病変部に存在する骨髄間質細胞が脊髄の修復に何らかの直接的な効果を有すると考え得る。
脊髄表面と病変部内の骨髄間質細胞は共に時間とともに徐々に減少し、注入3週間後までに消失する。この現象は、神経幹細胞移植の場合とは異なる。間葉系幹細胞という性質をもった骨髄間質細胞にとって、脊髄内で長く生存するには脳脊髄液という環境は適していない可能性がある。間葉系幹細胞(MSC)は、脊髄への移植後、周囲にコラーゲン線維(膠原腺維)を含む細胞外構造を作り出す(8、17、57)。骨髄間質細胞は、GFAP陽性のアストロサイトや、O4陽性オリゴデンドロサイト、NF(またはチユブリン)陽性ニューロンに分化していなかった。〔3週間後までの間の〕骨髄間質細胞の消失は、骨髄間質細胞が腫瘍形成性や、他の異所性組織形成性を全く有さないか、あっても極くわずかであることを示唆している。
運動機能の改善と空洞形成の縮小
12.5mm上からの軽度挫傷例で、骨髄間質細胞注入ラットのBBBスコアは、すべての時点(挫傷後1,2,3,4,5週)で対照群に比して有意に高い数値を示した。25mm上からの重度挫傷ラットでは、注入後5週の時点で対照群(8±0)に比し、BBBスコアの有意の改善をもたらした。(10.28±2.98)。従って両者のケースで骨髄間質細胞注入が運動機能を有意に改善させることは明らかといえよう。
脊髄損傷は、通常進行性の組織壊死をきたし、多くの場合、空洞形成に至る(16、17、59)。この空洞形成のメカニズムはよくわかっていない。マクロファージが、組織修復の妨害に重要な役割を果たしている事を示唆する研究がある(16)一方、他の研究者はマクロファージが、病変部の髄鞘を除去することによって脊髄の再生を促進していると考えている(26、38、42、44)。
骨髄間質細胞注入が、12.5mmからの金属棒落下による脊髄損傷(軽症タイプ)と25.5mmからの金属棒落下による脊髄損傷(重症タイプ)双方の空洞形成を著明に減少させており、このことは、骨髄間質細胞が損傷した脊髄の修復に寄与している事を示唆している。小数の骨髄間質細胞は、損傷部辺縁で生き残った宿主組織と接触していた。このことは骨髄間質細胞が、もしあるとすれば、宿主組織の修復に対してその局所でのみ効果を有しているのかもしれない。一方比較的多数の骨髄間質細胞は脊髄の表面に存在している。これらは脊髄の組織修復に対し脳脊髄液を介して有効に働いていると考えられる。空洞の辺縁の組織は、主にアストロサイトとオリゴデンドロサイト、それにいくらかのニューロンで構成されていることが明らかになっている。このことは、骨髄間質細胞がグリア細胞の回復と増殖、軸索の成長を促す何らかの栄養物質を産生している可能性を示している。骨髄間質細胞注入ラットから得た脳脊髄液が、ニューロスフェア細胞の〔細胞皿への〕付着と分化を促したという今回の生体外実験の所見は、この仮説を支持していると思われる。現在、骨髄間質細胞から産生されたいかなる物質が、損傷した脊髄の空洞形成の縮小を含む組織修復に寄与しているのかは知られていない。
5.臨床的意義
脳脊髄液を介しての移植物質〔の脊髄への移植〕は、損傷を受けた脊髄に追加的な外傷性の損傷を与えるということがない。骨髄間質細胞の移植は、患者への腰椎穿刺によって行われることになろう。腰椎穿刺は重大な侵襲なしに行われうるので、効果を持続させる為に、骨髄間質細胞を繰り返し注入することが出来る。今回の研究は初めて、脳脊髄液を介した骨髄間質細胞の移植が、ラットの損傷した脊髄の運動機能の回復と組織修復を促進すること、そのことが、患者〔ヒト〕に重度の外科的苦痛を与えることなく、臨床的に骨髄間質細胞の自家移植を行うための道筋を示していること、を明らかにした。
謝 辞
著者らは、GFP遺伝子操作ラットを提供して頂いた、大阪大学遺伝情報実験センター (Genome Information Research Center)の岡部勝教授に感謝致します。この研究は、日本文部科学省の科学研究助成を受けた。
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翻訳: 新谷進、天野千草、渡辺理恵子(以上赤十字語学奉仕団)
伊藤淑子医師、阿部由紀、で分担して翻訳
阿部由紀が全体を調整・編集