| Journal of Neuroscience Methods 124(2003) Dissemination and proliferation of neural stem cells on the spinal cord by injection into the fourth ventricle of the rat a method for cell transplantation ラットの第4脳室への注入による神経幹細胞の脊髄における 播種と増殖:細胞移植の一方法 |
Hongliang Bai、 Yoshihisa Suzuki(鈴木義久)、 Toru Noda、Sufan Wu , Kazuya Kataoka、 Masaaki Kitada、Masayoshi Ohta、Hirotomi Chou、Chizuka Ide(井出千束)
京都大学医学部形成外科
要 約
京都大学医学部解剖学・神経生物学(解剖学第二教室)
われわれが調べた脊髄表面における海馬由来の神経幹細胞の分布は、第4脳室を介して注入した3週間までのものである。注入した細胞は、脊髄軟膜上の小さな斑点として播種状に拡がり(disseminated)、増殖をとげて大きな細胞集落となった。細胞集落の数は、背側面でも腹側面でも注入後5日目までは急速に増加し、その後は隣の集落と合体したため徐々に減少していった。付随して、個々の細胞集落が規模の面では絶え間なく増大し、脊髄表面部のほぼ50%を占拠した。細胞の付着が見られたのはふつう、血管のまわりであり、細胞はそれに沿って脊髄の中に侵入した。
損傷部では、細胞が病巣へと移動し、統合をとげて脊髄組織となり、そのうちの一部は注入後1〜2週間目にアストロサイトに分化していた。BrdU取り込み実験が示したところによると、移植した細胞が増殖をとげたのは宿主脳脊髄液の内部であった。これらの結果が指し示すのは、脳室を介して神経幹細胞を注入するというのが、細胞を脊髄のいたるところに播種状に拡げる効果的な方法であり、そしてこれなら、細胞が移動し、統合をとげて損傷した脊髄の一部ともなりうるということである。
キーワード:神経幹細胞、細胞移植、GFP、神経前駆細胞(ニューロスフェア)、第四脳室、脳脊髄液
1. 緒 論
神経幹細胞の移植が広い範囲で研究対象とされてきたのは、中枢神経系(CNS)の損傷を治療する場合である(Van-der-Kooy and Weiss,2000; Fuchsand Segre,2000; Seaberg and van-der-Kooy.2002)。移植に対する取り組み方はさまざまであり、細胞キャリア(Wu et al.,2001)のような人工的基質の有無をとわず、損傷した脳への注入(Gage et al.,1995; Fricker et al., 1999)や脊髄への注入(Akiyama et al.,2001)など、局所に直接投与することが試みられてきた。他方、遺伝子治療薬(Bajocchi et al.,1993)や神経栄養因子(Araujo and Hilt1997)、そしてnitecaponeなどの薬剤の場合には、脳脊髄液(CSF)を介して投与がおこなわれてきた。
われわれが以前の研究で示したのは、CSFを介して海馬由来の神経幹細胞を移植することの可能性についてであり、ラットの第4脳室への注入によるものであった(Wu et al.,2002a)。注入した細胞はCSFを介して運ばれていき、損傷した脊髄の軟膜表面に付着した後、移動し、統合をとげて病巣の一部となった。このことが指し示すように、CSFを介して神経幹細胞を注入することは、神経幹細胞を脊髄の病巣部に供給する効果的・実用的な方法の1つである。とはいえ、損傷した脊髄のみならず正常な無傷の脊髄でも、注入した細胞の初期段階での細胞の播種度(dissemination)や増殖度についてはまだ調べがついていなかった。
本研究は、無傷の脊髄の軟膜表面における神経幹細胞の付着度ならびに増殖度に焦点をあて、第4脳室への注入後3週までを詳しく調べようとしたものである。細胞集落をHRP-DAPで染色した後の脊髄の全体像では、注入した神経幹細胞の播種度や動態的増殖がはっきりと捉えられた。注入した細胞の多くが損傷した脊髄組織に移動していた。これらの知見は、第4脳室に神経幹細胞を注入するというのが、幹細胞を用いて脊髄の外傷性ならびに疾患性の病巣を修復させる上で、効果的な方法の1つであることを示している。
2. 材料と方法
2-1 神経前駆細胞(ニューロスフェア)の調製
海馬組織は、緑色蛍光タンパク質(GFP)の遺伝子標識をほどこしたスプレイグドーリー・ラットのE16胎児から取り出したものであり、これを機械的に解きほぐし、1個1個の細胞からなる懸濁物を得た(Wu et al.,2001)。3〜5日培養すると、海馬細胞が浮遊性の神経前駆細胞を形成しており、これを2〜3回継代後移植に用いた。
2.2 移植のための手術
スプレイグドーリー・ラット(4-週令、体重は70-90g)を用いた。ペントバルビタール・ナトリウム(50mg/kg)の腹腔内投与により麻酔した後、ドリルを使って、頭蓋中心線のラムダ縫合後方3.5mmのところに直径1mmの穴をあけた。この穴を介して、定位目盛りのあるインスリンシリンジを用いて5分間以上かけゆっくりと、25μLの細胞懸濁液(1x106 個の成育可能細胞)を第4脳室中に注入した。注入後1、3、5、7、14、および21日目の各時点で、10匹の動物たちそれぞれに固定液を灌流した。これに加えてわれわれは、脊髄損傷を有するラットを作成した。12匹のラットたちの脊髄損傷は、NYU重量物落下装置(ニューヨーク大学方式の脊髄損傷動物モデルを作るシステム)を使ってT8-9位に生じさせるものであった(Wu et al.,2002b)。椎弓切除によって脊髄の背面部を露出し、その背面部上に、高さ50mmのところから重さ10g、直径2.5cmの金属棒を落下させた(Constantini and Young,1994)。ついで、上述のように調製した神経前駆細胞を、上記と同様の方法で第4脳室中へ注入した。手術は京都大学の動物実験マニュアルに基づいて行った。
2.3 組織の調製と蛍光組織化学
組織の調製および免疫組織化学的実験についての方法は、われわれの以前の報告と同様である(Wu et al., 2001)。用いた一次抗体およびその希釈度は以下の通りであった。グリア線維性酸性タンパク質(GFAP:Sigma、Sigma社製)を標的とするマウスモノクローナル抗体が200倍希釈、ネスチン(Pharmingen)を標的とするマウスモノクローナル抗体が200倍希釈、チューブリン・タイプIIIを標的とするマウスモノクローナル抗体が300倍希釈、Rip(米アイオワ大学のDevelopmental Studiesからの供与)を標的とするマウスモノクローナル抗体が300倍希釈。二次抗体ではAlexa Fluorフラグメントを結合したヤギ由来マウス抗体が1000倍希釈である。染色した切片は、共焦点スキャンニングレーザー顕微鏡(Radiance 2000)を使って観察した。
2.4. 免疫ペルオキシダーゼ組織化学
内因性のペルオキシダーゼを5%過酸化水素で不活化した後、全脊髄と脳を0.1%Triton X-100含有のPBS溶液に浸し、0.1%BSA(牛血清アルブミン)含有のPBS溶液で蛍光ブロックした。標本は、一次抗体、ウサギ抗緑色蛍光タンパク質(GFP)ポリクローナル抗体(Chemicon International製)400倍希釈と一晩4℃の条件で反応させた。続いて、二次抗体、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)を結合したヤギ由来抗ウサギIgG(MBL製)100倍希釈と一晩反応させた。ダルベッコ社のリン酸緩衝液で洗浄後、この標本に固定剤として0.1%グルタールアルデヒド含有のリン酸緩衝液を加えて10分間固定した。洗浄後、標本を0.05%の3,3’-diaminobenzine tetrahydrochloride(酵素標識抗体、DojinDo製、)および0.1%の過酸化水素が含まれるPBS溶液で反応させた。DAB染色した脊髄の観察は、解剖用顕微鏡(CarI Zeiss社製)下でおこなった。
2.5. 高電圧電子顕微鏡
高電圧電子顕微鏡(HVEM)でGFP陽性細胞を観察するに際しては、厚さ10μmのクリオスタット切片を調製し、上記と同様の方法で蛍光ペルオキシダーゼ染色を行った。DAB反応の後、切片をさらに1%OsO4含有の25mM PIPES緩衝液(pH7.4)で1時間ポスト固定し、特級エタノールで順次脱水し、最後にエポキシ樹脂に包埋した。極薄切片および0.5μm切片はウルトラミクロトームUltrotome III(LKB社製)で切断し、その観察は、国立生理学研究所(岡崎市)の従来型80kV電子顕微鏡(JEM1200EX、JOEL社製)および1000kV高電圧電子顕微鏡(HVEM、H1250 M、日立社製)でおこなった。
2.6. 脊髄における細胞集落の定量化
脊髄におけるGFP陽性集落の数は、2.4x倍率の解剖用顕微鏡下でカウントした。異時点での2回の観察から得られた結果は平均値をとった。集落のサイズに関係なく、褐色に染色された斑点の数をカウントした。どの時点でも、4個の脊髄から得た値は平均値をとった。
DAB染色脊髄から取り出した胸部の2枚のスライドは、各標本からランダムに選択した。脊髄における集落の表面積はイメージプロセッサーを使って計算し、NIHイメージ1.61プログラムで解析した。2枚のスライドから得られた値の平均値を胸部脊髄における集落の表面積と見なした。
2.7. BrdUの投与と免疫組織化学的検証
術後2週間後、動物たちには、1日間2時間毎に、体重あたり50g/gの用量で、BrdUの腹腔内注入を受けさせた。BrdUは0.0007N NaOHの0.9%NaClに、1g/100mLの濃度で溶解した。最終投与後2時間後、動物たちを死亡させ、上記のように、脊髄の切片を作成した。DNAを変性させるため、切片を30分間37℃の1 N HClで処理し、そのあと、上記と同様の免疫組織化学的手法でBrdUの免疫組織化学的染色を行った。一次抗体はマウスモノクローナル抗体BrdU(Sigma製)が100倍希釈、次いでAlexa Fluorフラグメント結合ヤギ由来抗マウス抗体(Molecular Probes社製)が1000倍希釈である。
3. 結 果
細胞注入後1日目には、付着した細胞の褐色を帯びた多数の斑点が脊髄表面に広く分布していることを確認することができた(データは不掲載)。こうした微小な細胞集落は、注入後1〜2日目には脊髄の頚部や胸部では大抵見られるものであった。細胞集落は徐々に規模の面で大きくなり、注入後1日目のピンポイント程度のサイズから、注入3週間後には面積が背側で1.2 x 0.8mm2、腹側では1.8 x 1.2mm2のサイズにまでなった(図1-4)。
図1.脊髄胸郭部の全体像。HRP-DAB染色。
細胞注入後3日目がA、5日目がB、7日目がC、14日目がD、21日目がE 。画像左のコラムに示されるのが脊髄の背側表面、右のコラムに示されるのが腹側表面。注入後3日目には、DAB-染色の数多くの斑点が脊髄の背側表面上にも腹側表面上にも散らばった。 細胞の集落は時間の経過とともに大きくなり、隣の集落と結合してネットワークとなった。細胞集落が形成されたのは血管のまわり(星印)であり、一部の集落は血管を超えたところにも(矢印)拡がっている。細胞集落の規模は、背側面より腹側面でのほうが大きい。スケールバーは2mm。
ふつう、集落の規模は腹側よりも背側の方が小さかった。DAB染色した脊髄における集落は、注入後5日目までは数を増加し、その後はゆっくりと減少していくと同時に、隣接する集落と融合したため規模の面では大きくなった。集落の数は腹側より背側に多いという傾向があった(図5)。
図5.細胞集落の数と面積、脊髄の背側と腹側表面における異時点比較。対応する一組のt検定では、背側表面と腹側表面との間に有意差のあることが示された(p<0.01)。
細胞の播種度と増殖度についてのこれらのパターンは、挫傷を与えた脊髄の正常部においても無傷のままの脊髄においても見られるものであった。損傷した脊髄の病巣部尾側では、細胞集落を見ることはほとんどなかった。
損傷した脊髄の挫傷は重篤なものであったため、灰白質の全部と背側の白質はほとんどが消失し、代わって大きな空洞となり、残っていたのは極くわずかの腹側の白質のみであった。脊髄表面における細胞集落は、時間の経過とともに絶え間なく拡張し、注入1週間後には一部の細胞集落が脊髄の病巣内へと侵入し、そして一体化をなし遂げた。一体化した細胞は大部分がGFAP免疫反応活性を示し、ネスチン免疫反応活性を示す細胞はごくわずかにすぎなかった。Ripないしタブリン免疫反応活性を示す細胞は皆無であった。注入後2ないし3週間後、侵入した細胞は完全に統合して宿主の組織となった(図2)。
図2.損傷した脊髄の矢状切断面切片。脊髄をGFAPで免疫染色したもの。数多くの細胞集落(いくつかを矢印で示す)がクモ膜下腔の脊髄表面上にあることが分かる。
A:注入1週間後。挫傷部位の腹側表面上には大きい細胞集落のあることが認められた。細胞が脊髄細胞に侵入したのは空洞の周辺である。B:注入3週間後。多数の細胞が空洞壁でも認められた。これを拡大したのが図DおよびE。C:図A内の矩形を拡大したもの。GFP陽性細胞(c1)はGFAP免疫反応性(c3、矢印)を見せている。DおよびE:図B内の矩形を拡大したもの。GFP-陽性細胞がGFAP免疫反応性を見せており(矢印表示はその一部)、これらの細胞はアストロサイトに分化していたことを示唆している。スケールバーは図のAとBが1mm、Cが50μm、DとEが200μm。
注目されることに、細胞の多くは血管付近に付着しがちで、細胞突起を血管の縦方向に拡げていった(図3A)。
図3.A:注入後3日目のDAB染色した脊髄頸部、共焦点レーザー顕微鏡画像。集落は主として血管(星印)に沿って縦方向に精巧な細胞突起を伸ばしている。細胞突起は粗いネットワークの形成に関連している。B〜D:移植後2週目のBrdUでラベルされた細胞、共焦点顕微鏡画像。赤くラベルされた核がBrdU陽性。Dは図BとCを重ね合わせた画像。スケールバーはAが500μm、B〜Dが50μm。
BrdU免疫組織化学が示したところでは、移植した細胞の核の一部はBrdUで識別化されるものであった(図3B-D)。血管に寄りそう集落は、血管から離れた位置にあるものに比べ明らかに大きかった。前脊髄動脈のまわりや脊髄前正中裂の内部でも、細胞集落は多いことが分かった。免疫電子顕微鏡画像は、注入した細胞が軟膜に付着していることを示しており、細胞が脊髄組織へと侵入する防壁の1つとして、軟膜が働いている可能性があることを示唆するものであった(図4)。
図4.A図: HRO-DAB染色した無傷の脊髄、免疫顕微鏡画像。注入後3週目の脊髄切断面。移植した細胞(褐色)が位置しているのは、動脈(矢印)のまわり、および前中心溝の内側である。
B図:A図内矩形部の高圧免疫電子顕微鏡画像。細胞突起および細胞本体(太い矢印)が位置しているのは、動脈(星印)に沿った結合組織の中である。細胞突起ないし細胞本体が脊髄組織に侵入することはないことが分かった。矢尻で示されるのは、脊髄組織とそれを取り巻いている結合組織との境界である。スケールバーはAが1mm、Bの倍率は15000倍。
4. 考 察
本研究が示したように、神経幹細胞が脊髄において広く播種状に拡大し増殖をとげたのは、第4脳室への注入によるものであった。そして脊髄が損傷している場合には、付着した細胞が移動して統合をとげ、損傷した脊髄の組織となった。このことは、脳脊髄液(CSF)を介して神経幹細胞を注入するというのが、細胞を脊髄の外傷性や疾患性の病巣部に移植する実用的方法の1つであることを指し示すものである。
神経幹細胞は第4脳室の正中口と外側口を介してCSF中に入り、脊髄のクモ膜下腔へと運ばれていった。CFS中を漂っているうちに、神経幹細胞は頸部から仙骨水準に至る脊髄の軟膜上に付着するようになった。個々の細胞ないし小さな集落として付着した後、神経幹細胞は徐々に増殖をとげ、目に見える細胞集落に成長し、さらに隣の集落とも融合して規模の面では一層大きくなった。BrdU取込み実験で示されたように、細胞の増殖が主なメカニズムであって、軟膜上における細胞集落の成長に寄与しているのである。全CSFは少なくとも1日か2日でことごとく入れ替わるので、細胞集落が大きくなるのは、CSF中に浮遊する細胞が次々と集積するからであるとは考え難い。
細胞集落が血管のまわりに集中していたという事実が指し示すのは、血管付近はおそらく栄養が十分に供給されるだろうから、神経幹細胞も増殖しやすいということである。脊髄の背側と腹側で細胞集落の分布が異なるのは、多分、血管系の密度や体型が関係していると思われる。ラットの体型では移植した細胞が脊髄の腹側表面に沈着しやすくなる、ということから大部分の説明はつくだろう。
注目されるのは、移植した幹細胞が生き残り、脊髄クモ膜下腔内の軟膜上で増殖をとげるという点である。脊髄上の細胞集落においては、数多くのBrdU-陽性細胞が検出される。注入した神経幹細胞が脊髄表面で高い生活能や増殖能を有しているということは、CSFの整える環境が細胞の生存と成長に好都合のものであることを指し示すものである。細胞の分化に関していえば、海馬由来の幹細胞が分化をとげると、アストロサイトになるのがふつうであり、脊髄病巣部でオリゴデントロサイトになるのは稀である(Wu et al.,2001,2001a,b)。ミクロの環境が、移植した細胞の分化に大きな影響を及ぼしている (Mujtaba et al.,1998、Shihabuddin et al.,2000)。しかし挫傷を負った部位において、どの種の因子が細胞の分化に影響を及ぼすかについては不明である。
脊髄に注入した細胞が侵入を起こしたのは、ふつう、血管にそってであった。電子顕微鏡で明らかにされたように、神経幹細胞やその細胞突起の侵入は、血管のまわりの、すなわち脊髄組織外の、結合組織の画分内に集中していた。われわれが観察した注入後の3週間に関する限り、軟膜基底板を通りぬけて無傷の脊髄組織に侵入する神経幹細胞は皆無であった。このことが意味するのは、神経幹細胞は脊髄における無傷の軟膜基底板を貫通し得ないということである。
培養した細胞を脊髄病巣部に局所的に直接注入することは、細胞を病巣の内側にとどめておくことの難しさに常に見舞われてきた。注入した細胞は、注入部からたやすく流出しがちである。それゆえ、細胞移植の結果にはバラツキがある。さらに、細胞の局所直接注入は外科的処置を必要とし、脊髄組織に対してダメージを引き起こす。
細胞を損傷した部位に局所的に直接投与することに伴うこれらの欠点に比べ、CSFを介して細胞を移植することにはいくつかの利点がある。細胞は、CSFを介して脊髄上に広く分布することになるし、宿主組織のクモ膜下腔においても付着・増殖・分化の各能力を維持することになるだろう。その比率は非常に低いものであったが、なかには病巣部に侵入し、病巣内部である程度の増殖をとげる細胞もある。細胞の移植がCSFを介して実施できるというのは、貴重な知見の1つである。将来は、病巣部への細胞の侵入を促進させる方法について研究する必要があるだろう。CSFを介して移植すると、ずっと少ない外傷で済み、しかもはるかに容易くおこなえるという事実は、CSFを経由して細胞を注入するもうひとつの利点である。従って、CSFを介して細胞の投与を行うことは、神経幹細胞を中枢神経系の病巣部に移植する有望な取り組みの1つであると言えるだろう。
謝 辞
武田科学財団(Takeda Science Foundation)からいただいた御支援に感謝したい。また、GFPトランスジェニック(遺伝子導入)ラットを供与してくださった大阪大学の遺伝情報実験センター(Genome Information Research Center)の岡部勝教授、HVEMに関して技術的御指導を頂いた、 国立生理学研究所脳機能計測センター(National Institute for Physiological Sciences, Center for Brain Experiment)(岡崎市)の有井達夫博士に感謝したい。この研究は日本文部科学省の研究助成に基づくものである。
脚注(References)
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翻訳:加藤哲太(東京薬科大学・薬学部)