| Journal of Neuroscience Research. 2003 May 1; 72(3): 343-51. Bone Marrow Stromal Cells Enhance Differentiation of Cocultured Neurosphere Cells and Promote Regeneration of Injured Spinal Cord 骨髄間質細胞は、共培養に付した神経前駆細胞の 分化を増強し、損傷脊髄の再生を促す |
Sufan Wu, Yoshihisa Suzuki(鈴木義久), Yoko Ejiri, Toru Noda, Hongliang Bai, Masaaki Kitada, Kazuya Kataoka, Masayoshi Ohta,Hirotomi Chou, and Chizuka Ide(井手千束).
京都大学大学院医学部形成外科
骨髄間質細胞(Marrow stromal cells; MSCs)の移植は、神経の再生を促進する有力な取り組みの1つだと考えられている。本研究で我々が調べたのは、invitro〔試験管内の実験=細胞実験〕では脊髄由来の神経前駆細胞(ニューロスフェア)に及ぼすMSCsの影響についてであり、in vivo〔生体内の実験=動物実験〕ではこの移植が損傷した脊髄の再生に及ぼす影響についてである。成熟ラットから採取したMSCsを、胎児脊髄由来の神経前駆細胞と共培養に付した。細胞混合培養によるもの、単層フィーダー培養によるもの、どちらの場合も行った。混合培養系では神経前駆細胞が刺激を受け、多数の突起を生みだした。単層培養系では、神経前駆細胞から出てくる多数の突起がMSCsに引き寄せられていくようだった。in vivo実験においては、移植したMSCsが病巣の組織修復能を高め、損傷した脊髄の再生を促し、その結果対照群に比べ損傷部の空洞は明らかに小さくなった。
京都大学大学院医学部解剖学、神経生物学
移植したMSCsの数は次第に減少していったが、一部の処置動物は顕著な機能回復を示した。これらの結果が示唆するのは、MSCsが神経前駆細胞の分化に及ぼす作用は強いと言えそうであり、これを移植することによって脊髄の再生を促進することは可能だろうということである。
キーワード;骨髄、間質細胞、脊髄損傷、共培養、神経前駆細胞(ニューロスフェア)
骨髄間質細胞(MSCs)は、骨髄細胞全体の約0.125%を構成しており(Mezey et al., 2000)、組織培養プラスチックに付着する傾向があることから骨髄からの分離が可能である。MSCsが骨芽細胞、軟骨細胞そして脂肪細胞の端緒となるものであることはすでに実証されている(Prockop, 1997; Phinney et al., 1999)。しかもこの細胞は、骨格筋線維(Ferrari et al., 1998)、心筋細胞(Orlic et al., 2001)、肝細胞(Petersen et al., 1999)、そして肝・肺・腸管・皮膚の上皮細胞(Krause et al., 2001)にも分化することが突き止められている。骨髄から分離した一個の成体多能性幹細胞が、大部分のタイプの体細胞にも貢献するということも証明されている(Jiang. 2002)。最近では、MSCsの移植が神経の再生を高める有力な取り組みの1つだと考えられている。
In vitroでの研究から、細胞内サイクリックAMPを増加する試薬の影響下において(Woodbury et al., 2000; Deng et al., 2001)、あるいは胎児脳細胞との共培養下において(Sanchez-Ramos et al., 2000)、MSCsはニューロンに分化しうると報告されている。MSCsはまた培養系ではシュヴァン細胞にも分化し、末梢神経の再生を刺激する(Dezawa et al., 2001)。宿主組織に移植後のMSCsは、ニューロン(Lu et al., 2000, 2001; Li et al., 2001;Mahmood et al., 2001b)や星状神経膠細胞(Azizi et al., 1998; Kopen et al., 1999)に分化する能力を示す。新鮮骨髄細胞もまたニューロン(Brazelton et al., 2000; Mezey et al., 2000)、星状神経膠細胞、希突起神経膠細胞(Nakano et al.,2001)、小グリア細胞(Nakano et al.,2001; Priller et al.,2001)、そしてミエリン形成細胞(Sasaki et al.,2001)にも分化すると報告されている。
上述のようにin vivoでもin vitroでもともに、MSCsの分化に関する研究は十分に行われてきたとはいえ、MSCsが脊髄神経細胞に及ぼす影響については、ほとんど知られていない。神経幹細胞を含む脊髄神経細胞に対してMSCsがどのような影響を及ぼすかは、MSCsの実用化をはたす前に明らかにされるべき基本的問題のひとつである。本研究は、in vitroでは脊髄前駆細胞との共培養を用いてMSCsの神経幹細胞への影響を見極めようとしたものであり、in vivoではMSCsを損傷した脊髄に移植することによって脊髄再生への影響を見極めようとしたものである。
1.材料と方法
MSCsの調製
緑色蛍光蛋白質(GFP)の標識がある月齢8週のオスのトランスジェニック系Sprague-Dawlyラットから、無菌条件下で骨髄を分離した。このトランスジェニック系から得られるすべての組織は、赤血球と毛を除き、励起光線下では緑色である(Okabe et al.,1997)。キメラ型ラットの末端遺伝表現型に関わりなく明るい緑色蛍光を発するので、骨髄系細胞は常に追跡可能である(Ito et al.,2001)。ドナーラットを頸部脱臼で死亡させ、脛骨を切除して取り出した。付着する筋肉をすべてこすり取り、低温のリン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄後、脛骨両末端部を切除し、25G針を用いて、骨髄をダルベッコ修正イーグル培養液(DMEM; Gibco社製、米)5mLで洗い出した。集めた骨髄組織をピペットの操作で解きほぐしておき、続いて100-μm径ナイロン製細胞濾過器に通してこれを濾過した。
この懸濁液を5分間300gで遠心分離し、上清は取り除いておいた。得られた骨髄細胞を75cm2の細胞培養フラスコ内で平板培養に付した。フラスコ内培養液は20%牛胎児血清(FBS; Hyclone社製、米)、ペニシリン(100U/mL; Gibco社製)、ストレストマイシン(100μ/mL; Gibco社製)を含むDMEMである。24時間後に培養液を交換し、非付着細胞は取り除いた。付着細胞がフラスコの底一面に成長した後、これを取り上げ、0.25%トリプシンおよび1mM EDTA(Gibco社製)の含まれる溶液内にて5分間37℃でインキュベーションし、細胞濃度6,000/cm2で継代をおこなった。
MSCsの脊髄由来細胞との共培養
脊髄細胞は野生型Sprague-Dawlyラットの胎児から得たものであり、その培養は以前記載したとおりである(Wu et al.,2001,2002)。簡単に記すと、胎生14日の胎児から脊髄を分離し、これを機械的に解きほぐし、一個一個の細胞からなる懸濁物を得た。こうして得られた細胞を規格既製の培養液DMEM/Ham’sF12 (混合比1:1、Gibco社製)中に入れ、細胞濃度5×105/mLで培養に付した。培養液には、無血清培養用サプリメントB27(2mL/100mL; Gibco社製)、ペニシリン(100U/mL; Gibco社製)、および組み換え体ヒト型塩基性繊維芽細胞成長因子(bFGF;20 ng/mL;Prepro Tech社製)を補充した。培養後3〜5日後には、脊髄細胞が浮遊性の脊髄前駆細胞を形成しており、これを6日毎に2回継代した後、共培養に用いた。上述した無血清培養液内では、脊髄細胞はふつう浮遊性の脊髄前駆細胞を形作っている。
GFP標識のあるMSCsと野生型脊髄細胞との共培養は、上述の無血清培養液で以下の2通りのやり方を実施した。1) 細胞混合系共培養の場合。神経前駆細胞とMSCsをともにトリプシナイズして1個1個の細胞に解きほぐしておき、異なる混合比率(神経前駆細胞 対MSCsの割合が 20:1、10:1、5:1、2:1の各ケース)で混合し、被膜のない培養皿で培養した。2)MSCの単層フィーダー系共培養の場合。はじめに血清含有培養液を用いて被膜のない培養皿中に単層のMSCsを作成しておき、その後、浮遊性の脊髄前駆細胞との共培養を無血清培養液中で行った。神経前駆細胞との共培養に付す前に、MSCsはPBSで3回洗浄した。共培養の観察は位相差および蛍光顕微鏡の両方で行った。共培養の一部は免疫染色し、共焦点レーザー顕微鏡で観察した。
損傷脊髄へのMSCsの移植
総計48匹のSprague-Dawleyラット、年齢は4週、体重は70-90gを用いた。動物を4グループに分け、各グループの構成はそれぞれ実験群6匹、対照群6匹であり、動物は術後1、2、3、4週後にそれぞれ死亡させた。動物実験は京都大学動物実験ガイドラインに準拠して実施した。動物をペントバルビタール(50r/s)の静注で麻酔下に置き、脊髄の胸部中位(T8-T9)水準で椎弓切除を行った。標準的な脊髄挫傷はニューヨーク大学の重量物落下装置を使用した(Constantini and Young, 1994)。高さ50oのところから重量10g、直径2oの金属棒を露出脊髄上に落下させた。損傷後即座に、ハミルトンシリンジ(サイズ50μL)を用いて継続時間は5分間、背部表面から、約1 x 10 6個のMSCsを含む培養液20μLを損傷部1oの中心部に注入し、移植した。対照群には、同様の手術を行った後同じ用量の培養液上清を注入した。
運動機能の評価
運動機能の評価はオープン・フィールドBBBスコアリングシステム〔後肢運動機能の評価法の1つ、Basso-Beattie-Bresnahan Locomotor法〕を用いて実施した(Basso et al., 1995)。オープン・フィールド(75 x 120 cm)内の動物の行動を、2名の研究者が観察した。スコア0(完全麻痺)から21(正常歩行)までの機能評価を術後毎日記録した。
組織の調製
術後1、2、3、4週の各時点で12匹のラットを評価のために死亡させた。動物をペントバルビタール塩(100r/s)の静注で深く麻酔下に置き、続いて0.02Mのリン酸緩衝液(PB、pH7.4)50mLを経心的に灌流し、その後、400mLの低温4%パラホルムアルデヒドを含む0.1M PBS(pH7.4)を灌流させた。病巣は脊髄近傍の無傷領域も含めて切り出しておき、上記と同じ固定液にさらに3時間浸し、一連のショ糖溶液(0.02M PBS溶液中のショ糖として10%, 15%, 20%の各溶液)に2日間4℃で順次浸して凍結防止の処理をした。次にクリオスタットを用いて厚さ10μmの切片にし、免疫組織化学的染色後、組織学的観察のためこれをガラススライド上に乗せた。
試験のための培養系の調製
共培養後1週目、細胞混合系の細胞、単層フィーダー系の細胞ともに、免疫組織化学的染色のための調製を行った。培養物を、4%パラホルムアルデヒドで15分間室温にて固定した。これを0.02M PBSで3回洗浄し、あとは組織切片と同じ免疫組織化学的染色の手順を踏んだ。
共焦点顕微鏡用の免疫組織化学的染色
免疫組織化学的研究に際しては、脊髄組織の調製済み切片および固定した共培養系細胞を0.005%サポニン(Merck社製、独)で膜透過処理し、さらに20%脱脂乳(Block-Ace、大日本製薬、日本)で30分間、免疫ブロック処理をほどこした。用いた一次抗体およびその最終希釈度は以下のとおりである。グリア線維性酸性タンパク質を標的とするマウスモノクローナル抗体(GFAP、 Sigma社製、米)が200倍希釈、βチューブリンを標的とするマウスモノクローナル抗体(typeIII、Sigma社製)が300倍希釈、S-100を標的とするマウスモノクローナル抗体(Sigma社製)が300倍希釈。二次抗体ではAlexa Fluor-645 フラグメント結合ヤギ由来抗マウス抗体(Molecular Probe社製、米)が1000倍希釈である。得られた試料には一次抗体を加えて一晩4℃で反応させ、続いて二次抗体を加えて一晩4℃で反応させた。染色した切片の観察には共焦点スキャニング顕微鏡(MR1024;Bio-Rad社製、米)を使用した。対照の切片は一次抗体を用いることなく作成しており、有意性のある染色が観察されることはなかった(データは不掲載)。
免疫電子顕微鏡
クリオスタット切片をPBSで3回洗浄し、0.5%のH2O2(100%のメタノールで希釈した30%H2O2)で20分間室温にて反応させ、PBSで3回洗浄し、脱脂乳(Block-Ace)でブロックした。この切片を次に、ウサギ由来抗GFP抗体(Chemicon社製、米) 200倍希釈と一晩4℃で反応させた。これをPBSで3回洗浄後、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP、 MBL社製、日本)を結合したヤギ由来抗ウサギIgG1000倍希釈と一晩4℃の条件で反応させた。この切片をPBSで3回洗浄し、1%グルタルアルデヒドで10分間室温にて固定した。続いて、PBで洗浄後、切片を0.04% 3,3-ジアミノベンチジンテトラヒドロクロライド(DAB)と15分間反応させ、その後0.005%H2O2を含む同じ試薬で5分間反応させ、抗体に結合したHRPを視覚化した。0.005%H2O2を含む試薬中でジアミノベンチジン(DAB)染色後、切片を1%オスミウムテトロキシド-PB溶液で80分間室温にてオスミウム酸固定した。
次に切片を、順次濃度を変えたエタノール(50%?99.5%)に入れ脱水し、100%アセトンに入れ、Epon812に浸してガラススライド上に包埋した。包埋した切片を熱処理によりガラススライドからはがし、金属台に乗せた。包埋した組織をウルトラマイクロトーム(Ultrotome III; LKB社製、スエーデン)を使って厚さ80nm(ナノメートル)にスライスしておき、目視しながら、通常の電子顕微鏡(JEM-2000EX、 JEOL社製、日本)を使って撮影した。
移植した細胞数の測定および空洞サイズの計測
移植した細胞の数の評価に際しては、MSCsを移植したそれぞれの動物から、病巣の中心部にあたる代表的切片3枚を選び出した。細胞の数を計算するため切片を赤色励起の蛍光色素TO-PRO-3iodide(TP3)で染色した。空洞の計測の場合には、術後3週グループのラット3匹を用いた。クリオスタット水平切片をHE(ヘマトキシジン・エオジン)で染色しておき、脊髄内空洞域を画像処理・分析ソフトウエア(NIH1.61)で計測した。空洞域の面積は50μm間隔の連続切片から割り出した。次に空洞の体積は、脊髄の平均面積に深度を乗じることによって算定した。
2.結果
MSCsはin vitroで神経前駆細胞の分化能を高める
脊髄細胞だけを培養した場合には、培養開始後3日以上にわたって、神経前駆細胞が徐々に発育をとげていった。神経前駆細胞はふつう未分化状態のまま培養液中に浮遊しており、突起を出すことはなかった(図 1A-C)。
図1 脊髄由来の神経前駆細胞の形態、およびMSCとの混合細胞共培養下における形態A-C。神経前駆細胞の培養3時間がA、1日がB、4日がC。;未分化のまま培養液中に浮遊する神経前駆細胞、突起は出ていないD-G。神経前駆細胞をMSCsと混合し(混合比20:1)、共培養に付して3時間がD、1日がE、4日がF、7日がG 。MSCsの影響下で神経前駆細胞が培養皿の底に付着し、細胞突起が伸張。この突起はより長くなり、培養7日後には多様なネットワークを形成したG。H-I: 蛍光発光と位相差顕微鏡を重ね合わせた画像、共培養(混合比10:1)に付して4日目の細胞。突起を伸張する神経前駆細胞のネットワーク内に、MSCs(緑色)は散在している。
混合細胞の共培養
MSCsとの共培養の場合には、細胞の混合比率が20:1の低いものであっても、すべての神経前駆細胞が培養皿の底に付着し、細胞突起の広範な突出を示した。MSCsの割合が増加するにつれて、神経前駆細胞はより長い神経突起を拡げていき、高割合のMSCsになると、神経前駆細胞の急速な分化が誘発された。この現象は、共培養開始後早くも3時間のうちにどの培養系でも観察されるものであった。細胞の突起は時間の経過とともに長くなり、培養後6日目には多様なネットワークを形成していた(図1 D-1)
MSCsの単層フィーダー共培養
浮遊している神経前駆細胞が徐々に単層のMSCsに付着し、共培養開始後24時間以内に、細胞突起の伸張を示した。突起は急速に成長し、単層の一部のMSCsを除いて互いに結合した。このようなやり方で、最初は単層のMSCsに覆われていた培養皿の上に、突起を有する神経前駆細胞が拡がっていった。こうして単層のMSCsは斑点状に、神経前駆細胞と入れ替わったのである(図 2A-D)。
免疫組織化学的染色では、神経突起やグリア突起はともに神経前駆細胞から伸張していき、緊密にMSCsに付着していることを示すものであった。異なった神経前駆細胞から伸張している一部の、大きくて長い神経突起が互いに結合し、神経のネットワークを形成していた(図 2E-H)。培養時のMSCsはほとんどすべてがS-100抗原の抗体染色で陽性であった(図 2I)。
図2 MSCと神経前駆細胞との単層フィーダー共培養A-D:単層のMSCs上に神経前駆細胞を重ねて培養したときの位相差顕微鏡画像、0時間時がA、6時間時がB、24時間時がC、72時間時がD。浮遊している神経前駆細胞が単層のMSCsに付着するようになり、共培養後24時間以内に細胞突起を作り出した。はじめは神経前駆細胞が突起をMSCsの表面上に伸ばしてゆき、続いて培養皿の広範な領域を占拠してしまったが、一方、逆に、数個のMSCs(星印)はこの中でも依然として姿をとどめていた、D。E-G:共培養7日目のチューブリン免疫染色。神経前駆細胞から伸長してきた神経突起(赤色)がしっかりとMSCs(緑色)に付着しながら微細なネットワークを形成する。H: 共培養7日目のGFAP免疫染色。神経前駆細胞から出てきたグリア突起(赤色)が骨髄幹細胞に付着している。I:MSCs培養物のS-100免疫染色。ほぼすべてのMSCsが培養時にS-100免疫染色陽性を示す。スケールバー=100 マイクロメートル。
MSCs はIn vivoで組織の修復を助長し、機能の回復を促進する
移植したMSCsは損傷組織内でも生き残っており、宿主組織と緊密に結合していた(図 3A-C)。
図3 MSCs移植後の損傷した脊髄の免疫組織化学的顕微鏡画像、免疫染色(赤色)はGFAPによる。A: 移植後1週。損傷部の中心には多数のMSCs(緑色)が生存している。
B: 図Aボックス内の拡大画像。MSCsの位置は宿主神経組織が閉め出されている領域の内側にあり、宿主とのやりとりは境界面で行われている。C: 移植後2週。宿主組織はMSCsに向かって収斂しており、損傷部の空洞化を防止しているように見える。MSCsの数は時間とともに減少する傾向があった。D: 術後3 週、対照ラットの場合。損傷脊髄は典型的な大きな空洞を示し、病巣の明確な修復ないし再生はない。スケールバー= 1mm (A, C, D); 250マイクロメートル(B)
宿主の脊髄組織は移植したMSCsに向かって引き寄せられ、空洞化を防止しているようだった。移植したMSCsの数は時間の経過とともに徐々に減少するようだった(図4)。
図4 踏みとどまっているMSCsの数。術後1、 2、3 週の各時点で取り出した病巣中心部の3つの切片から算定。移植した細胞は時間の経過とともに徐々に数を減らしていった。
対照群動物における病巣の空洞(図 3D)は、MSCsを移植した動物の場合(図 3A, C)よりも大きそうだった。対照群の症例と比較すると、MSCsを移植した動物の病巣にある空洞は有意に小さくなっていた
(図 5)。
図5 空洞の体積比較。術後3週のMSCs移植動物と対照動物(各グループ3匹ずつ、n=3)。MSCs移植動物の空洞体積は対照動物のそれより有意に小さい。*P < 0.01
免疫電子顕微鏡 移植したMSCsを電子顕微鏡で確認すると、膠原繊維の基質の内側にあるHRP(西洋ワサビペルオキシダーゼ)陽性の非特異的細胞であった。膠原基質内には数多くの成長錐体が存在し、軸索の束に接近していることが分かった。移植したMSCsは、膠原線維基質に囲まれた線維芽細胞様の形状をとっている(図6)。
図6 MSCsを移植した脊髄の免疫電子顕微鏡画像。病巣内宿主組織と移植細胞との境界面を撮ったもの。移植後1週。膠原基質(c)の内側には多くの成長錐体(g)が見られ、すぐ近くに軸索(a)の束がある。MSCs(m)は線維芽細胞様の形状を示し、膠原線維基質がその周りを取り囲んでいる。スケールバー= 5マイクロメートル
機能の評価 処置動物は一般的に対照動物より歩行能力が良くなった。処置したラットの数例(24匹中6匹)は、顕著な回復を示すものであった。すなわち術後1週で、後肢関節の2つないし3つを深く折り曲げることができるようになり(BBBスコア6-7)、術後3週になると、体重支え歩きやしっかりとした前肢・後肢間の運動調整さえ示したのである (BBBスコア14)。これに比べ対照群では、偽注射を受けた動物はBassoら(1996)が記述しているように、NYU インパクターによる50 mmの挫傷によって引き起こされた典型的な麻痺を示していた。この動物たちが後肢関節をうごかすことができたのは、術後2週からであった。体重支え歩きや運動調整が観察されることは一切なかった(図 7)。
図7 BBBスコアによる機能回復の経時的変化。データ表示は平均値±SEM。MSC処置動物が示すスコアは対照動物より有意に高い。* P < 0.05
3.考察
共培養下では、脊髄神経前駆細胞に及ぼすMSCsの影響力は極めて強いものであることが示された。わずか数個にすぎないMSCsの存在下でも、共培養に付した神経前駆細胞に働きかけ、ニューロンとグリア細胞の双方に分化するよう誘発し得たのである。このことはおそらく、MSCsから何らかの栄養因子が放出されており、それが神経幹細胞の分化を刺激するのだと考えられる。MSCsの作り出したある種の因子が、ES細胞の神経の分化を助けているという報告(Kawasaki et al. 2000)はあるが、MSCsが神経幹細胞に及ぼす作用についてはこれまでのところ調べがついていない。興味深いことに、単層のMSCsは、はじめは神経前駆細胞の分化と増殖を助けているようであり、神経前駆細胞の集落の伸張が単層のMSCs領域を侵略していくようにも見えたが、他方で、伸張したその細胞突起はMSCsの表面部に付着していた。この現象は、MSCsと神経前駆細胞との共培養に特有のものであると考えられる。MSCsは、結合組織に属する細胞だと見なしてもいいだろう。
したがってMSCsと神経前駆細胞は、はじめは共培養時に反応し合うが、互いに直接接触したままでいることはできず、徐々に接触しなくなり、両細胞みずからの領域に閉じこもるのである。組織学的起源が異なることから生じるこのような細胞の離反にもかかわらず、神経前駆細胞に働きかけ、神経突起やアストログリア突起を作らせるというMSCsの性質は、注目されてしかるべきである。上述したように、この種の表現型に対する分子レベルの究明を進めていけば、MSCsの機能にも一層の洞察が生れてくるだろう。
MSCsは損傷した脊髄(Hofstetter et al, 2002)や損傷した脳(Chen et al., 2000、 Mahmood et al., 2001a)の機能の改善を促進しうるし、サンドホッフ病〔GM2ガングリオシド蓄積症;遺伝病の1つ〕なら寿命の延長をもたらす(Norflus et al.,1998)と報告されている。しかしながら、これらの作用のメカニズムは不明である。本研究でMSCsを移植した動物の空洞は、未処置動物の場合よりずっと小さくなっていることを示すものであった。移植した動物の損傷部の中心に位置するMSCsが、周りにある宿主組織を中心部に向かって引っ張り込み、空洞化を防止しているようだった。これらの知見は、我々が以前の研究で神経幹細胞の移植後を観察したときの次のような知見とは異なっている。すなわち、移植したときの神経幹細胞は、病巣部周辺の脊髄組織へと広範囲に移動していき、完全に統合して宿主組織の構成体となったのである(Wu at al, 2001,2002)。
脊髄損傷においては、進行性の組織壊死が独特の反応であり、このとき損傷部は徐々に変容して大きな空洞に満ちた病巣となる (Zhang et al., 1997)。こうした空洞化に重要な役割を果たしていると考えられるのが、病巣内のマクロファージである(Fitch., et al. 1999)。マクロファージは、病巣のニューロンやグリアには害作用を及ぼすと考えられている。
しかしそれとは反対に、適度のマクロファージの漸増や活性化はミエリン破片の速やかな除去にとっては必須である(Beuche and Friede 1984)。病巣からミエリン鞘を排泄するときもマクロファージは有益であり(Popovich et al, Ousman and David, 2000)、損傷した脊髄の再生を促すと考えられている(Lazarov-Spieger et al., 1996; Rapalino et al.,1998)。脊髄損傷後の再生期中に、はじめは損傷域で優位を占めていたマクロファージが、徐々にグリア細胞を含む他の細胞に置き換わっていった。これは、神経再生の成功にとっては不可欠のプロセスだと考えられている(West et al., 2001)。本研究で移植したMSCsはふつう、病巣の中心に位置していたのであり、そこに、はじめはマクロファージが集積した。移植したMSCsのこの位置関係が意味するのは、MSCsは本質的には造血性組織であって、マクロファージに満ちた病巣内でも生き残りうるということである。上述したように、MSCsのこの種の属性は神経幹細胞のそれとは違うのであり、神経幹細胞なら外見上こうした環境下では生き残り得ない。
本研究において、移植したMSCsには移植する前に、神経の分化を促すいかなる処置もほどこさなかった。仮に、神経細胞やグリア細胞に分化する処置がなされたMSCsを移植に用いたなら、本研究で観察されたものとは違う宿主組織との相互作用が見られることになったかもしれない。本研究では、移植後のMSCsはもとのままとどまり続け、神経細胞やグリア細胞に分化することはなかった。このことの意味は、移植したMSCs自体が脊髄内で組織修復を促進する役割をはたしたのだということである。
電子顕微鏡で示されたように、移植したMSCsの周りには膠原線維基質が存在していた。MSCsが組織学的には結合組織に属する細胞であることを考慮に入れると、膠原線維基質の形成はMSCs自身がもつ属性の反映である。病巣に移植したMSCsが徐々に減っていくことは、中枢神経系(CNS)組織がCNS外細胞をCNSから排除していくプロセスの1つであるのかもしれない。とはいえ、脊髄内病巣の優れた修復が示唆するのは、たとえCNS外細胞であろうとも、MSCsは神経の再生に効果を及ぼすということである。
謝 辞
著者らは、加藤朝雄国際奨学財団(International Scholarship Foundation)から援助して頂いたことに感謝します。また、GFP遺伝子操作ラットを提供して頂いた大阪大学遺伝情報実験センター(Genome Information Research Center)の岡部勝教授に感謝します。
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翻訳:平野和也(東京薬科大学・薬学部)
(参考)第2回日本再生医療学会総会2003.3、抄録より
2525 脳脊髄液経由でニューロスフェアーを脊髄損傷部へ移植する方法の開発京都大学形成外科1〉,機能微細形態学2)
○鈴木義久1),Wu Sufanl),北田容章2),片岡和哉l),張弘富1),太招正佳1),江尻洋子l),鈴木茂彦l),野田 亨2),井出千束2)
脊髄損傷の治療に神経幹細胞の有効性が期待されている。そこで,脳脊髄液経由で神経幹細胞を脊髄損傷部に移植できないかを検討した。GFPラットより海馬由来のニューロスフェアーを作成した。4週令のラットのT8?9のレベルで脊髄に圧挫損傷を加え,第4脳室に注入した。術後1ヵ月の観察では,脳脊髄液と共にクモ膜下腔を移動し脊髄表面の軟膜に付着していた。また損傷部で多くの移植細胞が脊髄実質へ遊走し突起を出して宿主組織に組み込まれていた。免疫組織染色ではアストロサイト,オリゴデンドロサイトヘの分化が観察された。神経根内ではシュワン細胞様の形状を呈していた。これらのことから周囲の環境により幹細胞の分化の方向が決定されると考えられる。以上,脳脊髄液中に注入した神経幹細胞は損傷された脊髄および神経根の表面に付着し,さらに組織実質内に侵入,分化することが明らかとなった。