| 大阪大学医学部付属病院 脊髄損傷に対する自家嗅粘膜移植法 ― 第1回公開説明会 ― |
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| 日時:平成18年11月26日午後1時〜4時30分 場所:大阪市舞洲障害者スポーツセンター「アミティ舞洲」 司会:サイエンスジャーナリスト 東嶋 和子 大阪市総合医療センター前副院長 松田 英樹 |
注記:下記のとおり自家嗅粘膜移植による損傷脊髄機能再生法について大阪大学医学部付属病院脳神経外科による第1回公開説明会が開催された。臨床試験の開始については、審査手続き等の関係で来年4月以降にずれこむ模様である。
プログラム
まず、研究責任者である吉峰教授から、この研究の概要の説明があった。そこで強調されたことは@効果は充分とはいえない。A副作用の解明も完全とはいえない。今回はあくまでも治療ではなく臨床研究の段階である。ということだ。そのうえで、@脊髄がもと通りに再生されるわけではないこと、A脊髄機能が一部回復するが、完全ではないこと。(嗅粘膜移植後のラットの脊髄の断面が紹介され、損傷前とは異なった組織により間隙が埋められていることが説明された。)
- はじめに 大阪大学医学部脳神経外科 吉峰 俊樹
- 自家嗅粘膜移植法の実際 大阪大学医学部脳神経外科 岩月 幸一
- 術後リハビリテーションの実際:大澤 傑
- 未来医療センターでの取り組み:大阪大学未来医療センター 飯田 妙
- 整形外科医の立場から:大阪市立総合医療センター前副委員長:松田 英樹
休憩(質問用紙を回収)- 質疑応答
岩月助手からは本研究の具体的な説明があった。冒頭、この試験の有効性、安全性は、この研究をリードしている国際的な研究機関(OMA)及び大阪大学の倫理委員会で審査されたものであると述べた。患者の適応基準については、
次に手術の概要が説明された。まず背中の真ん中に切開を加え、脊椎の後ろ側の骨をとり(椎弓切除)脊髄の損傷された部位を出し、手術用顕微鏡を用いて丁寧に瘢痕組織を除去して損傷部位をきれいにする。その後、内視鏡で鼻の中の「嗅粘膜」を取り出し、これを細かく切る。(1.5ミリ四方)最後に、損傷部位に「嗅粘膜」を移植して傷を閉じる。今回の手法は北京の黄医師の手法(OEG移植)とは全く違うとのことだ。今年の夏までに海外で127例実施され、術後の副作用としては髄液貯留11例(ドレナージ2例他自然消失)髄膜炎3例(鼻腔の菌が繁殖したもの。抗生物質で治療)鼻出血3例(タンポンガーゼで対処)嗅覚低下1例、神経因性疼痛1名 膀胱排尿筋と尿道括約筋の協調不全1例が報告された。尚、現段階では移植細胞の腫瘍化は報告されていないそうだ。
- 脊髄を損傷してから6ヶ月以上経過していること
- 脊髄を損傷してから6ヶ月以上経過していること
- 両方の下肢が完全運動麻痺をきたしていること
- MRI検査で脊髄損傷部位の長さが3cm以下であること
- 鼻の中に感染症がないこと
- 年齢が7歳以上40歳以下であること
(研究の内容を理解できる年齢を就学年齢の7歳とした。40歳については嗅粘膜の量のピークを考慮して決定した。)- 鼻腔に内視鏡がスムーズに入ること(CTで確認する)
- 嗅覚が正常であること
- 脊髄に出血がないこと
- 精神疾患がないこと(ハードなリハビリを必要とするため)
- 5年以内に悪性腫瘍の発生がないこと
- アルコール中毒、意識障害が無いこと
- 感染症(HIVなど)がないこと
- 肝臓腎臓障害がないこと
- 呼吸障害がないこと(高位頸髄損傷の場合、瘢痕組織を除去する際にリスクが大きいことから今回の対象外となる模様)
- 低血圧、(脊髄損傷特有の症状である起立性低血圧を除く)糖尿病がないこと
エリル注S(1)については成人患者に使用する予定である。くも膜下出血の患者での副作用としては頭蓋内出血、ショック、麻痺性イレウス等が報告されている。
次に大澤傑医師から術後のリハビリテーションについて説明があった。イタリアなどで術後のリハビリを視察して、かなりハードなリハビリテーションを患者に課すことを実感したと述べた。
それから既にイタリア、ポルトガルで行われている嗅粘膜自家移植後のリハビリテーションの様子を、動画で紹介しながら説明した。筋力増強のためのリハビリは術後1ヶ月後に開始予定である。具体的には、基礎的なリハビリと応用的なリハビリがあり、前者は重力を除いた状態で行い、急激な運動ではなく全ての筋肉(上肢、体幹、下肢)を対象として行う。機器を用いた訓練も行う。一日の訓練時間は相当長くなる。プール、電気刺激(FES等)による筋肉の収縮なども実施する。各人の損傷レベル、筋肉の状態に応じた訓練を実施する。筋肉がついてくると負荷をかけて行うこともある。歩行訓練は吊り下げ式トレッドミルがあるところではそれを使った訓練を実施する。平行棒での歩行なども実施する。五輪を目指す運動選手のように毎日トレーニングする。
歩行器を使える人は使う(ポルトガルの患者のスライド)問題点として回復はそれぞれで、足の負荷をかけるので骨折する可能性がある。エコノミー症候群(肺血栓)、膀胱括約筋協調不全、痙縮の増大が報告されている。他には、知覚の回復によるとみられる筋肉痛などの可能性と深部感覚(2)の回復があった例が報告されている。
後半は保険制度の問題点について説明があった。今年の診療報酬改正により、脳外科疾患180日が限度となった。除外規定として重度の頚髄損傷を除くとあるが「重度の」というところがどの程度なのか不明である。本研究の場合連日ハードなリハビリを実施するため、PTが一度に見ることのできる患者数が限定される。問題点として脊髄損傷専門のリハビリテーション施設が少ない。PTの不足が挙げられた。
次に未来医療センターでの取り組みについて看護師の飯田氏から説明があった:未来医療センターは大阪大学医学部付属病院の一部門として2003年4月に開設され、臨床研究を支援している。特にトランスレーショナルリサーチ、医師主導の部分を支援している。未来医療臨床研究部門と診療支援部門が関わっている。審査は医学倫理委員会と審査評価委員会を経る。本研究もこれらの審査を経て実施となった。この治療はまだ効果が明らかでなく、厳しいリハビリも必要で、臨床試験に参加する患者に研究の説明補助、スケジュール管理、精神的支援などを行う。本研究は副作用などの発生の可能性もあるが、特別な保障制度はない。通常医師主導の臨床試験には特別な保障制度はないが、万一そのような事態が起きた場合には最善の治療を実施する。費用について、特別な費用の請求はなく、通常の入院や手術と大きく変わらない費用負担となる予定である。差額ベッド代金や謝礼などは支払われない。参加に伴い,守っていただくこととして、退院後もスケジュールに従って治療や検査を受けてもらう。個人情報保護について、論文や報告書への掲載はあるが個人情報を漏らすことはない。適応患者の審査機関は自家嗅粘膜移植適応検討委員会で実施する。委員は外部の専門家等で構成され、被験者を選定する。未来医療臨床研究審査評価委員会は検査の進行状況、結果の報告を受けて、必要に応じて調査を行う機関。治療の安全性について科学的評価を行う。
臨床研究参加までの流れは、まず未来医療センターで研究についての説明があり、つづいて対象となりうるかの検査を実施した上で、同意説明、同意取得、自家嗅粘膜移植適応判定、患者登録、そして治療となる。医師からの説明は大阪大学医学部付属病院外来棟4階で実施される。通常の外来とは別のスペースで、30分〜1時間かけて行う。術後はリハビリテーションを行うため、大阪労災病院か地方独立行政法人 大阪府立病院機構 大阪府立急性期・総合医療センターに転院してリハビリに専念してもらう。我々は患者の転院後もそれぞれの病院と連携をとりながら必要な支援を行う。
質問文書による質疑応答
配布された質問文書を休憩時間に回収し、治療やリハビリ、サポート体制などについて出席者が回答した。
- 適応患者について(花粉症やアレルギー性鼻炎、低血圧、損傷レベルについて)
岩月助手:花粉症やアレルギー性鼻炎については耳鼻科で検査して、あまりに炎症反応が大きければ対象から外れる。起立性低血圧は脊髄損傷者につきまとうものなので問題ない。収縮時血圧90以下だとエリル注Sを使う場合に問題となる可能性がある。損傷レベルの適応については、瘢痕を切除する際に上肢機能にかかわる部位の切除には踏み込めないので、今回は完全下肢の運動麻痺の患者を対象とする。上肢機能の回復は期待できないと考えて欲しい。今回の主眼は下肢機能の回復にある。どのレベルでどの程度の回復があるのかは、海外のデータは解析中なので回答できない。
- 本研究に参加した後に他の臨床試験が出てきた場合に、適応外となる可能性について
岩月助手:その研究責任者それぞれの判断になるので何とも言えない。
- 瘢痕切除による残存機能への悪影響は
岩月助手:一旦でる可能性はあるが、患者の目に見える悪化は下肢に関しては少ないと考えられる。
- 残存機能の悪化に対するリスク対応
岩月助手:通常の脊髄損傷に対する治療、つまり神経組織の保護とリハビリテーションを実施する。
- 瘢痕組織の除去のみでは効果は出ないか
岩月助手:除去のみで効果は期待しにくい。再生医療においては細胞、足場と因子の三点セットが必要である。
- リハビリテーションは2年やらないと効果は期待できないのか
大澤医師:効果が期待できないのではなくリハビリを2年継続しないと効果が判定しにくい。動くか動かないかの判定には少なくとも2年必要である。3年4年やってどうかというのは未来のことなのでわからないが、少なくとも2年リハビリを続けて手術の効果が判定できる。
- 入院前、入院後、手術後のリハビリに違いはあるのか
大澤医師:入院前のリハビリは、すでにみなさんが続けている車椅子で自立するためのリハビリである。損傷してから少なくとも半年が経過しているので、そのリハビリは完成していると考えている。入院中は、術後については稼動域を確保するリハビリから始まり、術後一ヶ月後から本格的な筋肉強化訓練を開始する。内容はそれほど困難ではない。
- 180日を越えたあとの費用負担は
大澤医師:大阪の2箇所については限度の日数を越えても自己負担のないようにする予定。それ以外の施設については費用負担が発生する可能性がある。ただ、一般的なリハビリはそれほど困難なものではないので介助者が方法を覚えるのはそれほど困難ではない。
- 全体的なスケジュール
吉峰教授:未来医療センターでの審査の関係もあり、実施は早くとも来年4月以降になる予定。エリル注Sについては最初の5例は使わないで海外で既に実施されている方法で実施する。
本研究の期間と実施数は申請の段階では5年で40例である。変動の可能性はある。
- 海外で一番回復した例と悪化した例
岩月助手:最も回復したのはコロンビアの7歳の子供で受傷原因は銃撃によるもの。現在長下肢装具をつけて杖なしで歩いている。術後の機能低下については一時的な機能低下はあるか変わらないかという報告である。どのレベルでどうだという統計学的な処理はまだなされていないので答えることができない。
吉峰教授:瘢痕組織を除去するということで、ある意味新しい脊髄損傷を作っているともいえる。髄膜炎が起きた場合には術前より悪化するという可能性もある。
- 統計的に改善する例はどのくらいか
岩月助手:公式にはポルトガルのデータのみである。他に脊髄再生を目的とした治療はいまのところ慢性期対象は存在しないと理解している。国内では亜急性期を対象としたものとして関西医大があるが事実上中断していると聞いている。海外では中国の黄教授の治療は慢性期を対象としているが、行われているという紹介だけで言及を避けたい。豪州のグリフィス大やロシアで実施されているものは急性期対象である。慢性期は現時点では情報がない。
- 嗅粘膜のなかの何が作用しているのか
岩月助手:作用している細胞は神経鞘細胞(3)もしくは基底細胞(4)と考えられる。今回は純化された細胞ではなく組織移植となるが、人間の体には1種類の因子のみで寄与していることはないわけで、今回も複合的な効果を期待している。組織移植により神経鞘細胞が活躍できる場を与えていると考えている。
- 損傷部分について、損傷後の変性部分は3センチにカウントされるか
岩月助手:損傷を受けた部分から足側は神経栄養がなくなって神経が萎縮するが、そこはカウントしない。あくまでも損傷でダメージを受けて瘢痕組織となり神経組織そのものがなくなったところをMRIで計測して3センチ以内とご理解いただきたい。
- 嗅粘膜細胞のサイズについて
岩月助手:嗅粘膜のサイズは当初2ミリ角だったが、空洞部分に隙間なく埋めたほうが良いという観点から1.5ミリ角を考えている。
- 神経がランダムに繋がることで悪い影響はないのか
吉峰教授:ランダムに繋がる可能性はある。それを是正するのがリハビリテーションと考えている。
- これを治療法として確立する方法として考えているのか
岩月助手:4年前、ある患者さんが研究室に電話をしてきてポルトガルの話を紹介されたのが本研究を始めるきっかけとなった。それまでは他の研究者と同様、脊髄損傷を直せるわけがないと考えていた。今回は臨床試験ということで、すべての識者の同意を得て、あるいは何の反論もなく、完璧な治療として進めていくのは無理で、あくまでも発展途上の研究であるが、きちんとした治療にしていきたいと考えている。一人の外科医としては目の前の患者を治すのが仕事と考えてやっていることをご理解いただきたい。
大澤医師:イタリアでは機械を使ってリハビリをしていたが、あれが無くても家族や介助者がやり方を覚えれば充分可能なのでそれほどお金がかからずに実施できると考えている。
(1) 塩化ファスジル水和物で、中枢神経系に存在するある種の物質(ロー・キナーゼという酵素)の働きを抑える働きをする。既に脳卒中における脳血管攣縮を防止する為に使われている薬剤。 (2) 位置感覚。身体各部の位置を感じる知覚 (3) 神経鞘(ショウ)細胞。この細胞が嗅球のほうへ突起を延ばしていく。この突起=神経線維を伸ばしていくのをサポートする細胞がOEG。 (4) 嗅粘膜中の細胞で幹細胞様性格を持っている (文責)日本せきずい基金事務局
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