JSCF NPO法人 日本せきずい基金

勃起不全(ED)治療の保険適用について


脊髄損傷者にとってのED
糖尿病、腎疾患、高血圧、脳血管障害、動脈硬化、うつ病、脊髄損傷、重度骨盤損傷、神経疾患(多発性硬化症等)等の疾患はEDのリスクファクターとして知られている。また、前立腺がんなど骨盤内の手術や降圧剤、血糖低下剤、抗うつ剤などの治療薬が原因でEDとなることも広く知られている。

EDの合併率は上位の損傷(第9胸髄以上)で10〜20%、下位の損傷(第10胸髄以下)では70〜80%と云われ、国内の脊髄損傷によるED患者数は4,800〜36,000人と推計されている(白井將文: EDの疫学とリスクファクター. 臨床と研究 Vol.76 No.5 p841, 1999)。

ファイザー社の海外での公表データによると、脊髄損傷者に対するバイアグラの有効性は83%(プラセボ12%)である。

病院によっては初診で約4万円、2回目以降で約2万円の費用がかかる(西日本新聞2000年4月15日)。

脊髄損傷者の性に対するハンディはQOLが大切であるという時代になった今もなお、社会的なハンディのそれにも増して重要な問題だ。とくに男性脊髄損傷者にとっての性生活は子孫繁栄をも含めて深刻なものがある(妻屋明:脊損ニュース 1999. 4)。

脊髄損傷は当事者のみならず、家族の人生に対しても大きな影響を与える。バイアグラを投与された脊髄損傷者178例を調査した外国論文によると、患者本人のみならず、女性パートナーのQOLも改善されたことが報告されている(Holmgren et al, 1998)。

脊髄損傷を例にとればバイアグラの使用で初めて結婚に踏み切れたという若い患者のケースも少なくありません(東京新聞:2000年4月16日)。

脊髄損傷者の機能障害は性機能であってもそれは障害の一部であり、その障害のある部分を補うための薬剤費用は当然保険適用にするべきだ(妻屋明:脊損ニュース 1999. 4)。

「根本治療薬でない」という理由で、(バイアグラの)処方には診察、検査、投薬料の全額が自己負担になるということに対しては何とも納得ができない……根本治療とは言えない例として、脊髄損傷者には足が麻痺して立つことができないため起立するための下肢装具などが支給されるような考え方にはならないのだろうか(妻屋明:脊損ニュース 1999. 4)。

バイアグラの保険適用が問題になるのには理由がある。対象疾患が命に関わるものでないことや、必ずしも薬を使う必要のない人が使用する例も多いためだ。そんな人に医療保険を使うのは論外であり、保険財政がパンクしかねないというのが保険非適用の有力な論拠になっている。ただ考慮しなければならないのは、この薬を必要としている人に対し治療上の壁を設けてはならないということだ。薬の価格は一錠が1,100〜1,300円と、それほど高くない。だが、関連の検査や処方料、調剤料などを考えるとその数倍の支払いが必要で、患者の負担は大きい。

また保険適用の部分とそうでない部分とにカルテを分けることで、医療機関は煩雑な作業を求められる。これを嫌ってバイアグラでの治療を実施しない医療機関も出てくるとみられ、患者の選択の幅が狭まる恐れもある。……日本には約600万人の性的不全の男性がいるとされる。この中にはきつい治療を受けている人もいる。性的不全を病気と位置づけ、一定の要件を満たしているなら、医療保険の支給あるいは還付の対象とすることを考えてもよいのではないか。これは病で困っている人に手を差し伸べるという医療保険の基本精神を生かすことにもなる。 (日経新聞:1999年3月24日)。


日本におけるED治療への保険適用
日本では、EDに関する検査・治療薬は全く保険適用を受けていない (ED治療に対し全く保険適用を認めていないのはG7の中で日本のみである)。

日本泌尿器科学会等は、ED検査(器質性EDと機能性(心因性)EDを区分するための諸検査)の保険適用を数年にわたって求めてきたが未だ適用を受けていない。

治療薬に関しては、シルデナフィル(バイアグラ)は勃起不全を適応症として薬事法上の製造承認を受けているにもかかわらず、「バイアグラは性交を可能にするために使用されるものであって、一時的に勃起力を補助するが、勃起不全を治癒するものではなく、日常生活の質を改善するための薬剤であると考えられるため、公的医療保険の給付対象とはしない」との判断が厚生省から示された(99年3月)。

シルデナフィル(バイアグラ)の発売当初、不適切な使用、保険財政への影響、安全性の問題などが世論の関心事となった。しかし、昨年4月から12月の処方状況を分析した結果、処方を受けた患者の平均年齢は58.4歳で、基礎的な疾患・既往を有する患者が53%に達することが明らかとなった(残りの47%は処方医が患者の疾患・既往を認知していない患者である)。

また、初年度の売上高は50億円程度にとどまり、安全性についても、国内の医療機関で処方を受けた患者については、これまでのところ因果関係の明らかな重篤な副作用は報告されていない。


ED治療が保険適用されていないことによる
患者の不利益
重度の傷害や手術の後遺症、深刻な慢性疾患などが原因でEDとなった場合、患者のQOLを回復するために行われる診療行為の一環としてEDの診断・治療が行われているにもかかわらず、これらにかかる費用が全て自己負担となっている。

重度の傷害や手術の後遺症、深刻な慢性疾患を持つ患者は、既にかなりの重荷を背負っている。疾患、傷害、治療行為等によって失われた機能を取り戻す機会をこのような患者から奪い取ることは社会的に正しいとは言えない。

現状では保険外診療に消極的な医療機関が多く、ED治療を必要としている患者のアクセスが大きく制限されている。

基礎疾患の治療を行っている主治医がEDの診断・治療を併せて行う場合、混合診療を避けるというだけの理由で、患者は別途来院し、診療料を全額自己負担で支払うといった本来的には不必要な負担を強いられている。

現状では、医療機関でED治療を受けるよりもED治療薬を個人輸入する方が安価である。このため、ED治療薬の服用に慎重を要する患者が十分な知識を持たないまま、不適切な使用を行う可能性が高い状況にある。




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