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上海レポート
第5回アジア太平洋神経再生シンポジウム(APSNR)

日本せきずい基金事務局:渡部



 第5回アジア太平洋神経再生シンポジウム(APSNR)が2006年12月8〜10日、上海の同済大学にて開催された。これは隔年に開催されるもので第4回は2004年12月に大阪で開催され、2008年にはソウルでの開催が予定されている。
 基金から役員が参加したので、そのトピックスを紹介する。なお、現地での移動や通訳には「上海市障害者連合会」の全面的なバックアップを得た。

 シンポジウムは、A:脳損傷、B:脊髄損傷、C:視神経、D:末梢神経、E:幹細胞ほか、の5セッションに分かれ、我々はBとEのセッションに参加した。
 日本からは、吉峰俊樹・岩月幸一(大阪大学脳神経外科)、出澤真理(京大神経生物学)、田畑泰彦(京大再生研)の諸氏が報告。

ICCPの脊髄損傷の臨床試験に関するガイドライン
 J.Steeves(カナダ・ブリティッシュコロンビア大学、ICORD)がガイドラインの概要を報告。解剖学的帰結のみでは意味がなく、神経学的帰結、機能的可能性、QOLの向上を念頭にガイドラインをデザインしたこと。ASIAによる治療成績の評価には数百例の、長期間にわたる、損傷レベル・重症度ごとのデータが必要であることを述べた。
 これに対してワイズ・ヤングが、マウスなどの脊髄損傷評価モデルであるBBBスケール〔ヤングのいたニューヨーク大で開発〕で蓄積されてきた膨大なデータをなぜ考慮しないか、ASIAでは正確な評価は出来ない、と強く批判し、Steevesは多くの患者を時間をかけて治療成績を評価すればよい平行線となった。メチルブレドニゾロンの効果への疑問視も含め、ヤング氏が北米では孤立しているような感じがした。

「中国脊損ネットワーク」と慢性脊髄損傷への臨床試験
 ワイズ・ヤング(米国ラトガーズ大学)が香港大学の蘇國輝(Kwok-Fai So)教授とともに進めている臨床試験実施のための「ChinaSCINet」について報告。病院に正確な記録を取る習慣がなく、患者は再来診しないため治療成績のフォローアップが困難な状況にチャレンジしていること。今後の治験アプローチとしては3点を挙げている。
@ 600人の脊損者の1年の観察研究
 ウェブベースのデータ入力システムを開発し、神経学的機能の詳細な記録を6週、6ヶ月、1年時にフォローしていく。
A 塩化リチウムの慢性脊髄損傷者への投与
 香港大学などの論文において、躁うつ病治療に使われてきた塩化リチウムの治療効果が報告されている。その安全性と実行可能性を評価するために20人の慢性脊髄損傷者へ6週間、塩化リチウムを投与する(2006年12月に開始)。次にプラセボ群を設定し60人に3ヶ月間投与し、6週、6ヶ月、1年の神経学的機能を評価する。
B 臍帯血移植とリチウムの併用治験
 HLA抗原の適合した臍帯血単核球を400人の被験者の脊髄に注入し、投与群とプラセボ群に無作為化した被験者に3ヶ月間、リチウムを投与する予定。
質疑ではリチウムが直接細胞に作用する証明があるかとの質問。効果の説明は長くなるので省略するがこれは新しい研究ではなく、リチウムの効果について100編以上の論文が発表されている。また患者の利益は、IRBやGCPによって保証して行く、と述べた。

子どもの中枢神経系の可塑性の臨界期
 ICCPガイドライン編集委員であったJW. Fawcett(ケンブリッジ大学教授)は、哺乳類の子どもの中枢神経系は発達可能性が高く、その可塑性の臨界期は5歳であり、それ以降は多くの可塑性が失われると報告。ヒトの末梢神経の術後の手の機能回復は子どものほうがよいことはその例証の1つである、とした。
 成体の脊髄と視覚野の研究では、コンドロイチナーゼによる治療が、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン(SCPGs)に連なるグリコサミノグリカンを除去し急速な機能回復に導くが、それはおそらく主に可塑性を刺激しているからであろう。

ポルトガルの嗅粘膜移植
 カルロス・リマ医師は今春の米国医学誌に掲載した7例について報告〔会報30号で紹介済み〕。嗅粘膜の神経再生効果については1979年に初めて報告されて以来、嗅粘膜のさまざまな細胞タイプについて研究されてきたことを文献を列記して紹介したが、それ以上の新たな内容はなかった。
 対象群をなぜ設定しないのかとのSteevesの質問には、できない、との回答だった。

ラットへの嗅粘膜移植
 嗅粘膜移植の臨床試験を計画している大阪大学の岩月 幸一助手が、ラットでの前臨床研究の結果について報告〔国内では発表済み〕。胸髄損傷のラットに嗅粘膜の移植群と呼吸粘膜の移植群各5匹の運動機能回復を比較。8週後にBBBスコアで両群を比較し、嗅粘膜移植群では後肢を動かしたが、呼吸粘膜移植群では動かさなかった。2週間後には軸索再生を確認している。ラットの脊髄のギャップの接続については5ヶ所で確認したとして、その有効性を報告した。

骨髄間質細胞による自家移植療法
 骨髄細胞から筋肉細胞を誘導した研究で注目されている出澤 真理助教授(京大解剖学・神経生物学)が、その後の研究の進展について報告した。
 ラット及びヒトの骨髄間質細胞に特殊な処理を行なって培養し、極めて効果的に特定のシュワン細胞(末梢グリア細胞)、ニューロン、骨格筋細胞に誘導することに成功した。骨髄間質細胞から筋肉への分化は89%の確率で成功。臨床応用への3つの可能性;
骨髄間質細胞 → @ シュワン細胞 → 脊髄損傷治療へ
骨髄間質細胞をレチノイ酸で処理し、栄養因子を加えシュワン細胞を誘導する。末梢神経損傷では、移植用チューブにシュワン細胞を入れてラットに埋め込むと6週間後には神経のギャップがつながっていた。
A Notch→サイトカイン → パーキンソン病/脳卒中
骨髄間質細胞から誘導したニューロンをラットのパーキンソンモデルに移植すると改善を示した。Notch(ノッチ)は、細胞内のタンパク質を連鎖的に活性化して、細胞分化の引き金となる転写を引き起こすシグナル分子。
B Skeletal(骨格筋) → 筋ジストロフィー 
骨格筋に誘導された細胞を退化した筋肉組織に移植すると筋線維に分化した。

 この誘導システムは稀少な幹細胞集団に依存せず、分離と増殖の容易な骨髄間質細胞の一般集団を利用することができるので、機能的シュワン細胞、ニューロン及び骨格筋細胞は治療レベルで調達することができる。我々の骨髄間質細胞分化システムは、神経変性疾患と筋変性疾患のための今後の究極的な細胞ベースの治療法の実質的な進展に関与する可能性がある、と報告。〔これらの臨床試験は出澤先生が関係する米国のバイオベンチャーで今後実施されていくものと思われる。〕

以上


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