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研究ニュース Spinal Cord誌(2004年5月号)Vol.42、273〜280頁
M.アダムス(M. Adams)、J.F.R.カバナ(J.F.R. Cavanagh)
(ISRT - International Spinal Research Trust:国際脊髄研究基金)
International Campaign for Cures of Spinal Cord Injury Paralysis (ICCP)
脊髄損傷治療法確立へ向けての国際キャンペーン
脊髄損傷研究のためにさらに一歩前進(翻訳:赤十字語学奉仕団;関根孝江、佐藤裕子、桑田 恵子、清水賢治、亀澤 譲)
慈善事業諸団体は、過去20年間以上にわたって SCI(脊髄損傷)に付随するマヒの治療法となる研究の推進に取り組んできた。この治療法の探求を始めた当初、SCIは恒久的なものである、すなわち脊髄は一度損傷すると回復することがないと考えられていた。今日、当時と同じ諸団体は、多くの重要な進歩を実現し、新たな希望をもたらし、研究者と臨床医とSCI患者の三者の未来を同様に変えた研究への資金提供を行っていると考えられている。脊髄修復の基礎生物学的理解が深まったことで、現時点の問題は、治療法として提供できるものが果たして見つかるかということではなく、むしろ有効な治療法をいつ提供できるようになるかということに移ってきている。こうしたことから、脊髄研究を推進する多くの団体は提携を結んで、治療法確立を加速するための協力方法を模索している。以下にICCP(International Campaign for Cures of Spinal Cord Injury Paralysis:脊髄損傷治療法確立へ向けての国際キャンペーン)と名付けられたこの提携の使命と目的を説明する。
はじめに
毎年、イギリスでは1000人におよぶ人々が、そして全世界では10万人におよぶ人々が、脊髄損傷(SCI)でマヒ状態となり、車椅子生活を余儀なくされ、多くの場合、介護に頼らざるを得なくなっていると推定されている(www.Campaignforcure.org)。SCIを負う平均年齢が33.4歳であることと、推定寿命が一般の場合とあまり変わらないことから、SCI患者人数は毎年増加傾向にあり、2005年までにその人数はおよそ250万人に達すると予想される。この結果、SCI患者のための長期介護と社会サービスの提供にかかる経済的コストは、年間で数百億ドルを上回る(www.Campaignforcure.org)。信頼しうる諸報告によれば、そのコストはイギリス国内だけで年間5億ポンド以上、アメリカではおよそ77億米ドル程度になる。
最近まで、外傷性SCIを負った後の機能回復に効果的な治療法が開発される見込みは無いと考えられていた。しかし、過去10年間の動物モデルによる実験での飛躍的な科学の進歩によって、近い将来、SCI患者の機能をある程度回復させる治療法が利用できるようになるという期待が高まってきている。SCIの治療法の開発を行っている多くの基礎研究や臨床研究は、有効なSCI治療法の開発に献身的に取り組んでいる民間慈善事業諸財団から提供される資金を頼りに行われている。こうした慈善事業財団のたゆまない努力や肯定的姿勢は、近年の実験成功につながった資金提供や鼓舞激励をもたらし、治療の成功の話しは誤った期待を高めるに過ぎないという否定的な考え方の払拭に役立っている。無傷の脊髄やSCIに付随する脊髄の変化の理解をより深めれば、損傷後のダメージを小さくして、機能を回復させる治療法により正確に的を絞ることが可能となるに違いない。これらの慈善事業財団の役割は、新たな発見や期待される成功についての変化に伴って変化するのである。
民間財団の役割
SCIの治療法の開発の実現のために献身的に取り組んでいる多くの民間財団は、SCI患者本人や近親者にSCI患者を抱える個人によって設立された。歴史的に、これらの財団は、政府や企業や個人を含む多くの収入源から資金を調達し、それぞれの財団が掲げる目的に応じて、念入りな計画に基づいて資金を割り当てて研究支援を行ってきた。全ての財団は、その収入源を公開し、分配システムを開かれた透明なものにしなければならない。この資金の流れの公開には、科学界や医学界において有意義で科学的に論理的であると認められる質の高い研究のみに確実に資金提供が行われるようにする公認研究審査の利用も含まれる。
優先される研究の決定
全ての財団の主目的は、関連する研究に最も効果的な援助を提供することにある。同時に、民間財団は、SCI患者と緊密な関係を保つことで、SCIを負った人々にとって最も重要な問題を明らかにすることができる。研究者とSCI患者の双方のニーズに基づいてターゲットとなる研究を見いだせば、これらの研究の正当性はより堅固なものとなり、資金の流れを関連する研究プロジェクトに優先的に向けることが可能となる。また民間財団間の協力関係も特定の関連研究分野に資金の流れを向けることに役立つと同時に財団間での資金提供の重複を防ぎ、全体として、その研究分野の進捗を最大限に加速させる。
さらに民間諸財団は、優先順位を科学界や臨床医学界において効果的に宣伝することによって、研究の進捗状況や関連する諸問題についての全体的な認知度を高め、他の資金(例えば、政府機関からの資金)の流れに影響を与えることができる。そして、この優先順位の宣伝は、特定の研究の進行を早め、その効果をさらに高めることにもなる。複数の財団からの資金を使用して成功につながった研究法の開発例としては、急性SCIのダメージを小さくするための治療法としての抗炎症薬メチルプレドニゾロンの使用があげられる。この重要な臨床医療における進歩につながった多施設共同研究プログラムでは、さまざまな局面での資金提供に複数の民間財団や政府機関が関わった(NASCIS臨床試験1)。
学際的手法の支援
科学研究や医療研究への資金提供を目標に応じて行う手法のもう一つの利点は、従来では政府機関による支援が受けられない形で基礎研究者や臨床医やその他の専門家が共同作業を行えるように、民間諸財団が刺激や支援を提供できることにある。臨床治療には複数の技術が組み合わされることが多いということがますます受け入れられるようになってきていることからもこのような共同作業の促進は重要で、基礎研究における進歩が実用的治療法に近づくにつれてこのような促進はますます重要となる。実験室における科学の進歩を患者が参加する臨床試験にできる限り早く移行させることが極めて重要であるということは言うまでもないが、最も重要であるのは関係する人々の安全である。基礎研究における進歩を有効な臨床治療法へと進化させる行程であるトランスレーショナル研究は、一般に職業研究者にとって魅力的な研究分野であるとは考えられていない。この種類の研究は、複雑で、費用と時間がかかり、政府からの資金提供もほとんど無い上、その潜在的恩恵にも関わらず、年間SCI患者増加人数が相対的に少ないことから、主要製薬会社にとって魅力のないものとなっている。ヒトが参加する臨床試験に移行する前の潜在的治療法の有効性と安全性の評価に法律上必要とされるトランスレーショナル研究の指導や方向付けに、慈善事業諸団体は間違いなく重要な役割を果すことになる。ヒトでの治療結果としての変化を調べる信頼性の高い手段を手に入れておくことは、次の研究段階への移行における重要な付加的要素である。
認識の拡大
民間諸財団には、関係する諸問題や優先事項を一般の人々やSCIを負った人々に効果的に確実に宣伝するというもう一つの役割がある。これによって生まれるSCIに付随する人的コストや経済的コストの認識やさらなる研究の必要性の認識は、他の資金源への影響力として利用することができる。
脊髄損傷治療法確立へ向けての国際キャンペーン
同様の目的を掲げた民間諸財団のグループが集結して1997年にICCP(International Campaign for Cure of Spinal Cord Injury Paralysis:脊髄損傷治療法確立へ向けての国際キャンペーン)(www.campaignforcure.org)発足させたのは、上述の諸問題を念頭に置いてのことであった。ICCPのメンバーは、ヨーロッパ、アメリカ、カナダ、オーストラリアでの研究を主として、世界中で行われている研究に資金提供を行っている。2001年の財政年度には、ICCPメンバーの諸団体は、2300万米ドル以上に相当する150件以上の基礎研究プロジェクトや臨床研究プロジェクトに資金提供を行った。
現在のICCPメンバーは以下の団体から構成されている。
ASRT(Australasian Spinal Research Trust:オーストラレーシアン脊髄研究基金)オーストラリア
CRPF( Christopher Reeve Paralysis Foundation:クリストファー・リーブ・マヒ財団)
ISRT(International Spinal Research Trust:国際脊髄研究基金)イギリス
IRME(Institut pour la Recherche sur la Moelle Epiniere:フランス脊髄研究所)フランス
KWNPF(Kent Waldrep National Paralysis Foundation:ケント・ワルドレップ全米マヒ財団 )アメリカ
MP(Miami Project to Cure Paralysis:マイアミプロジェクト) アメリカ
PVA(Paralyzed Veterans of America:米国退役軍人マヒ者協会)アメリカ
RHI(Rick Hansen Institute:リック・ハンセン研究所)カナダ
SRFA(Spinal Research Fund of Australia:オーストラリア脊髄研究基金)オーストラリア
ICCPの使命は、SCIによるマヒの治療法の発見を促進させることにある。ICCPメンバーの諸団体は、一つのグループとしてまとまって活動することによって、SCIを負った人々に関連する諸問題の解決となる有効な治療法が可能な限り早く、確実に開発されるように取り組んでいく。
ICCPの目的
ICCPメンバーである全ての団体は以下の主要目的に賛同している。
- もっとも優秀で才能にたけた科学者や研究者や臨床医、特に新卒者を中枢神経系の神経の再生と修復の分野に誘致し、脊髄研究者としてのキャリアを選択するように働きかける。
- 誰にでもSCIを負う可能性があることや、現在や未来の世代にもたらす治療法の影響を強調することにより、効果的な処置や治療法の開発のための一般の人々の支持を促進する。
- SCIを負った人々の生涯にわたる介護にかかる経済的コストを強調することにより、政府の脊髄研究への財政援助を促進する。
- 啓蒙や募金のキャンペーンを協力して実施して、SCIやマヒ治療法が本質的に世界的な性質の問題であることを広めることを考える。
- 研究所、科学者、臨床医、およびその他関係団体間の連携やコミュニケーションを推進する。
- 募金活動を行うグループ間のコミュニケーション強化を促進し、情報源や専門技術の共用を奨励する。
- 国際的なSCI研究分野のための戦略と優先事項の開発を奨励する。
- キャンペーンの進捗や成功を具体的かつ測定可能な成果に照らし合わせて評価し、進捗を現場に報告する。
ICCPの実績
ICCPメンバーの定例会議によって補強される四半期毎の電話会議は、全メンバーに関わる問題を討議するためや前述の目的を推進するためのきわめて重要な討論の場なっている。
ICCメンバーである諸団体は、ICCPやSCI研究の目的を一般の人々にもわかりやすい言葉で詳細に記した資料小冊子を協力して作成している。この小冊子は毎年更新され、各メンバー団体が募金活動や教育の目的に使用できる貴重な資料として提供される。また、ICCPは、SCI研究についての理解やメンバーによって提供された過去や現在の研究資金についての情報収集を求める個人や報道機関や団体や政府のためのさらに詳しい情報源となるウェブサイトの管理も行っている。
ICCPは、脊髄修復の分野への生涯を通じた取り組みを奨励し、これを支援するという使命を推進するためにICCP OYIA(Outstanding Young Investigator Award:優秀若手研究者賞)という年一度の賞を設立した。
ICCPは、毎年3500米ドルの助成金を2本提供することにより、損傷を負った脊髄を修復するための研究を推進し、若手の博士研究員にキャリアをSCI研究に捧げるよう促し、共同研究を奨励しようとしている。ICCP OYIA賞は、国際科学審査委員団の推薦に基づいて、科学的な功績に対して与えられ、2003年には米国のカリフォルニア大学サンディエゴ校のバレリア・キャバリ医師(Dr. Valeria Cavalli)とユタ大学のマイケル・レモンズ医師(Dr. Michele Lemons)にこの賞が贈られた。2003年以前の受賞者は、オーストラリア、ロイヤル・メルボルン病院、WEHI(Walter and Eliza Hall Institute:ウォルター・アンド・イライザ・ホール医学研究所)のエリザベス・コールソン(Elizabeth Coulson)(2000年)、米国・ニューヨーク州、ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校(SUNY Stony Brook)のジェフリー・ペトラスカ(Jeffrey Petruska)(2001年)、カナダ・オタワ市、神経科学研究所(Neuroscience Research Institute)のステファン・クロッカー(Stephen Crocker)(2001年)、米国、ジョーンズ・ホプキンス大学医学部(Johns Hopkins University School of Medicine)のアンドレア・ハバー・ブロサムル(Andrea Huber Brosamle)(2002年)、オーストラリア・メルボルン市、WEHIのロドニー・L・ライツ(Rodney L. Rietz)(2002年)であった。
神経外傷のためのイニシアティブ
州政府や地方政府が中央政府の政策から独立して資金の調達や割当を行うことが可能なオーストラリアやカナダや米国国内では、民間ロビイストらからの圧力やICCPメンバーの支援やアドバイスの結果、資金提供のための新たなイニシアティブが開発された。その典型例が、交通違反の罰金からの収入を神経外傷研究や交通安全問題のために割り当てるというものである。交通違反の罰金は、地域限定ではあるが次第に新たな重要な資金源となりつつあり、SCI研究機関の地理的な広がりにすでに影響を及ぼしている。
ICCPは、特にさらに多くの団体が医学研究に対する慈善資金提供の伝統がない国々において活動するように、或いは少ない資金源しか持たない類似団体を支援するように奨励している。米国では、ICCPのメンバーからの情報提供によってSCI問題についての一般の注目が高まり、このことが間接的にSCI研究に対する政府からの資金援助を増やすことに貢献した。NINDS(National Institute for Neurological Disorders and Stroke:米国国立神経疾患・卒中研究所)によって開始された新たなイニシアティブには、800万米ドルのFORE-SCI(Facility of Research Excellence for Spinal Cord Injury:優れた脊髄損傷研究を行う施設)プログラムが含まれ、このプログラムでは、SCI治療法を教えるための新しい講座を開設すること、SCIの分野に参入しようとする研究者を募集して新たな研修の機会を提供すること、急性期および慢性期の損傷についての研究を反復すること、そしてSCIの回復を評価するための新たな行動試験を開発することの4つ事柄が主目的とされている。
このプログラムがユニークであるとされているのは、実験観察結果を潜在的臨床療法に移行する際の大きな問題のひとつである再現性について特に取り組んでいる点にある。確信を持って臨床試験に進む前には、実験的治療の成功が確認されなければならないが、この前提条件はSCIについてのみならず、すべての医学研究に当てはまる。SCIについての有望な実験結果を再現する上での明らかな問題の多くは、技術的なものであると考えられる。研究所によって治療効果の評価に若干異なるモデルや方法が好まれるのはやむをえないことであるが、一見相反する結果がそのために導かれていることが多いことも事実である2。この問題は、(元となる研究論文の著者らとの協議で)結果の確認作業を独立した研究で行う動機となるものを提供することで克服され、このことによって実験研究をSCIの効果的な治療法に移行するための根拠が強化される。これらのイニシアティブはこの研究分野の将来にとって必ずプラスとなる。
臨床試験のガイドライン
ICCPのメンバーは、全世界の科学者によって受け入れられるようなSCIの治療法についての信頼性の高い臨床試験を可能にするガイドラインの確立にも取り組んでいる。現時点では、SCI患部の状態や障害の度合い(したがって、治療後の改善)を測定してモニタリングを行うための明確で客観的で正確な方法がまだ開発されていないにも関わらず、潜在的治療法についての少数の「臨床試験」が早くも注目を集めている。また、このような臨床試験は、他の研究機関による再現性の証拠の確認がないまま、単独での実行に踏み切られている。残念ながら早まった臨床試験は、最近、後退を余儀なくされた遺伝子治療についての臨床試験の場合のように、この分野の研究全体の信用を損ないかねない。このような事態を避けるために、ICCPメンバーは協力して、メンバーである諸団体に受け入れられ、将来の研究の質を保証するベンチマークとして使用できるような臨床試験のガイドラインの確立に取り組んでいる。これらのガイドラインの厳守は、臨床試験への参加を検討しているSCIを負った人々、臨床試験の計画や評価に関わる研究者、そして資金提供を行う団体自身に、その研究が有意義なガイドラインや評価結果や安全性の配慮に適合したものであることを保証することになる。
ICCP加盟団体
ICCP加盟団体は、皆同じ目標に向かって活動しているが、そのアプローチは、それぞれの慈善事業の領域、収入、理念によって異なっている。以下は各団体の一般的な戦略の記述で、より詳細な情報は各団体のウェブサイトで得ることが可能である。
ASRT (Australasian Spinal Research Trust:オーストラレーシアン脊髄研究基金)
ASRT(www.spinetrust.com.au)は、脊髄損傷(SCI)によるマヒに対する治療法を促進する研究のための資金を集めることを使命にスチュアート・イエスナー(Stewart Yesner)によって1994年に設立された。現在、収入の主要部分(約40%)は政府機関を資金源としており、残りの資金源は、企業(約20%)、個人会員(約20%)、スポンサー(約10%)、特別イベント(約10%)に分類される。
ASRTでは補助金の交付申請を公募し、SC(Sientific Committee:内部科学委員会)がどの申請に資金提供すべきかを審議して優先順位を決定している。選出された申請は、通常、1年間の資金提供を受け、これは延長することも可能とされている。またASRTは、保有する限られた資金を使って、第一線で活躍する研究者のSCI治療法に焦点をあてた会議への参加スポンサーともなっている。
ASRTが資金の一部を提供した最近のプロジェクトには、WEHI(Walter and Eliza Hall Institute for Medical Research:ウォルター・アンド・イライザ・ホール医学研究所)においてペリー・バートレット教授(Prof. Perry Bartlett)の指揮のもとに行われた成人幹細胞の研究や、ニューサウスウェールズ大学におけるフィル・ウェイト教授(Prof. Phil Waite)の嗅覚組織についての研究などがある。
CRPF (Christopher Reeve Paralysis Foundation:クリストファー・リーブ・マヒ財団)
CRPF(www.christopherreeve.org)は、全米規模の非営利団体で、SCIやその他の中枢神経系の障害によるマヒの処置や治療法を開発する研究への資金提供に尽力している。また、同財団は、障害を抱えて生活している人々のQOL(生活の質)の改善をはかるために、CDRPRC(Christopher and Dana Reeve Paralysis Resource Center:クリストファー・アンド・デーナ・リーブ・マヒ情報センター)、QOL補助金プログラム、および擁護運動を通じて活発に活動している。CRPFは、APA(American Paralysis Association:アメリカ・マヒ協会)とCRF (Christopher Reeve Foundation:クリストファー・リーブ財団)の合併により1999年に誕生した。1982年創立のAPA自体も、愛する家族のSCIをきっかけに設立された小さな家族財団がまとまった団体であった。CRFは、クリストファー・リーブと妻のデーナによって、1995年5月の乗馬中の怪我を原因に夫のクリストファーがベンチレーターに依存するC1-2の四肢マヒ者となった後にQOL補助金プログラムの設立資金を集めるためやAPAの研究プログラムを支援するために設立された。
CRPFの資金源は、個人(47%)、企業および財団(16.6%)、特別イベント(35%)、全米規模のチャリティ・キャンペーン(federated giving campaigns)など(1.4%)である。資金の大部分は研究プログラムに投資され、2003年の研究予算は739万米ドルであった。QOL補助金プログラムの年間予算は70万米ドルで、全世界から選出された障害関連団体に贈られる。
CRPFは2つの資金提供プログラムを通じて、世界中の研究機関で行われている脊髄研究の支援を行っている。IRG(Individual Research Grants:個人研究助成金)プログラムでは、国際的に著名な神経科学者や臨床医からなる評議会によって選出される上級科学者や若手研究者や博士研究員らに補助金(年間最高額7.5万米ドル)が2年間提供される。博士研究員のための奨学金も別途用意されており、年間6万米ドルまでの奨学金の受給を2年間受けることができる。現在、CRPFは、補助金受給者による第1回会合の準備を2004年3月に向けて進めており、これは今後2年毎に開催される予定である。また、同財団は、7研究機関(米国内の6研究機関、およびスイス・チューリッヒ市内の1研究機関)が加入し、それぞれが3年間の資金提供(1研究機関あたり年間26万米ドル)を受けているRC-SCI(Research Consortium on Spinal Cord Injury:脊髄損傷に関する研究コンソーシアム)の支援も行っている。また、このRC-SCIプログラムでは、カリフォルニア大学アーバイン校の動物コア研究室にも資金提供(年間45.5万米ドル)が行われており、カリフォルニア州ラ・ホーヤ地区のSI-BS(The Salk Institute for Biological Studies:サルク生物学研究所)のマイクロアレイ・コア研究室への資金提供(年間20万米ドル)も行われている。
現在、CRPFの研究奨学金は、負傷後の初期損傷を限定的なものに抑え、二次的な神経細胞の死滅を防止し、再生とミリエン再形成を促進し、腸機能や膀胱機能や性機能の障害や痛みや痙性といった二次的な合併症を改善することに注がれている。これまで補助金の大部分は、脊髄修復の生物学的理解に重点を置いた一連の研究のなかでも最も基礎的な研究に向けられていた。しかし研究が進むにつれ、CRPFの活動内容は臨床研究の支援へと大きくシフトしており、2003年にはトランスレーショナル研究のためのイニシアティブに着手する予定である。
IRME(Institute Pour la Recherche sur la Moelle Epiniere: フランス脊髄研究所)
IRME(www.irme.org) は、20歳の時の交通事故で四肢マヒとなった孫を持つジャン・ドロルム(Jean Delourme )が主導的に1984年に創設した民間の非営利団体で、その目的は、フランス国内でのSCI(脊髄損傷)修復研究の推進・支援活動を通して、SICについての理解の普及に貢献することにある。IRMEの方針は14名のメンバーからなる評議員会によって決定され、脊髄研究プログラムのための資金集めが行われる。研究機関から提出される助成金交付申請の審査は、14名の基礎科学者と臨床医からなる国際科学諮問委員会によって行われ、この諮問委員会が評議員会に助成金交付についての意見や推薦や提案を行う。
IRMEが個人による寄付とボランティア募金活動で集める年間収入は50万エキュ[1エキュ=1ユーロ]を超え、1995年から2000年までの5年間では243.9万エキュが研究に割り当てられた。
IRMEは、SCIの治療法の開発目的に基礎科学研究機関と臨床科とのネットワークを構築するという戦略をとっている。現在、IRMEは、SCI修復に関わる7つの基礎科学研究機関と臨床科で行われている研究の支援や調整を行っているが、その全てがCNRS(National Council for Scientific Research:フランス教育省科学研究局)やINSERM(National Institute for Medical Research:フランス雇用省保健医療研究局)といったフランスの公的機関や様々な大学とのつながりを持っている。
IRMEは、次の4つの主要研究路線に注目している。
1) 二次的損傷の防止
2) グリア性瘢痕と軸索再生のコントロール
3) 神経細胞の移植を用いた脊髄機能の回復
4) 細胞療法と遺伝子療法
1997年以降、IRME は、フランス、ドーヴィルで開催されたSCIに関する大規模な3回の会議を含む国際会議を定期的に開催してきた。
また、IRME は、SCIを負った人々のための救急治療システムの改善と標準化についての新しい多施設共同研究にも他の機関とともに関わっている。
ISRT(International Spinal Cord Research Trust: 国際脊髄研究基金)
ISRT(www.spinal-research.org)は、1980年にスチュアート・イエスナー(Stewart Yesner)が創設したSCI(脊髄損傷)に原因するマヒの影響を軽減することを目的とした研究への資金提供をその唯一の活動領域としたイギリスに拠点をおく医療研究慈善団体である。
ISRTは、政府からの資金提供を一切受けておらず、近年では、その収入の大きな部分を慈善信託という英米法特有の信託制度に的を絞った手法に大きく依存している。2002年?2003年の会計年度の収入源の割合は、一般的な募金活動やイベントが57%、信託が21%、投資が13%、そしてその他の財源が9%だった。年間出費は、イギリス国内のみならず、他のヨーロッパ諸国やカナダやアメリカを拠点とするプロジェクトにも資金提供を行い、約150万ポンドに増加した。
1996年の「研究のための第一の戦略」3の発表以来、ISRT の資金提供の対象は、注目に値する研究分野や主流助成金支給機関の支援をなかなか受けることができない研究分野に的が絞られてきた。この「戦略」については再評価が継続的に行われ、ISRTが対象とする分野の大きな見直しとして、その改訂版が2000年に発表された4。資金提供は、基礎科学の分野の博士研究者らを支援するために3年プロジェクトの競争補助金の形で主に国際的に行われている。研究プロジェクトは、正当な理由が十分に存在れば依頼という形で行われることが時々ある。また、若手研究者らにSCI研究の道に進むことを奨励するように設計された3?4年プロジェクトを対象としたNRBPhD(Nathalie Rose Barr PhD:ナタリー・ローズ・バール教授)大学奨学金計画は、これまでに17人の研究生の支援につながっている。なお、全てのプロジェクトへの奨学金は、国際的に著名な科学者らによって構成される専門家パネルによる審査を経て提供される。
最近のプロジェクトのテーマは、「早期段階の炎症の研究とコントロール」や「嗅神経グリア細胞の脊髄機能再生能力の仕組みの解明」や「部分的に損傷した軸索線維の機能改善」などから「運動を制御する内在経路の理解」までと多岐にわたっている。また、潜在的治療法についての信頼のできる臨床試験を開始する前にしっかりした枠組みを作るために必要とされる標準化された評価プロトコルの完成を目的としたクリニカル・イニシアティブ(Clinical Initiative)と呼ばれる大規模な学際的プログラムが現在進行中である5。
ISRTでは、その助成金で研究を行っている全員が一堂に会す会議を年に一度開催し、今後の資金提供のためのイニシアティブに影響を及ぼすことにつながる研究分野の進捗についての障害を具体的に明らかにして優先順位を決定する討論やコラボレーションや公開討論会を奨励している。
KWNPF(Kent Waldrep National Paralysis Foundation:ケント・ワルドレップ全米マヒ財団)
KWNPF(www.spinalvictor-y.org)は、脊髄再生の謎を解明する研究支援のためにケント・ワルドレップによって 1985年に創設された。その募金活動努力は、米国ダラス市の UTSMC(the University of Texas Southwestern Medical Centre: テキサスサウスウエスタン医療センター)内に最高技術水準のマヒ研究センターを建てることに注がれ、集められた寄付金は、ついには1,500万米ドルの基礎研究資金となり、脊髄再生やより優れた脊髄機能回復のための遺伝子技術や臨床治療法を開発するためにルイス・パラダ医師(Dr. Luis Parada)をはじめとする60人あまりの科学者の支援に使われている。KWNPFが優先するプログラムの一つには、例えば、脊髄損傷者のリハビリ用のトレッドミル・トレーニング・プログラムがある。
KWNPF では、少人数の科学諮問委員会を用いて優先すべき研究の評価と助成金への資金提供の承認を行っている。KWNPFは、独自の見解で支援したいと考える科学分野を探し出し、資金提供の対象を少数のプロジェクトに絞るという方針をとっている。代替療法の支援は行っていないが、多く形態の代替療法 (例えばカイロプラクティックなど) が脊髄損傷者のコミュニティに利益もたらす可能性があることからも特に反対しているわけではない。
KWNPFは、通常、年間約200万米ドルの研究費の支援を行っているが、うち150万米ドルはダラス市のUTSMC用に指定されている。もしも潤沢な資金が存在するのであれば、範囲をUTSMCから拡大して、世界中にある他の主要な研究センターと協調する臨床研究やリハビリ施設が含められることになる。そうなれば、移植や幹細胞の研究も推進されて、SCIが完全でない場合にマヒを逆転させる可能性がある治療法が開発されるであろう。KWNPFのもう一つの優先事項は、基礎科学者のコミュニティと臨床医らと間の共同研究やより効果的な相互作用を推進するシンポジウムの支援を継続して行くことにある。
KWNPFには、SCIを負った多くの人々のQOL(生活の質)の向上に役立つ治療が、2010年までに開発されるという根本的意見が存在している。SCI後に100%機能を回復させることは不可能かも知れないが、痛みや痙性の軽減や膀胱機能の回復は、SICを負った人々の多くが二度と享受することがないと諦めていたQOLの回復を可能にすることになる。運動機能の回復は遅かれ早かれ必ず実現されることに間違いない。ただ、この実現の時期を左右するのがお金と科学界でのリーダーシップなのである。
MP(The Miami Project:マイアミ・プロジェクト)
MP(www.themiamiproject.org)の事業モデルは、他のICCP加盟団体のものとは若干異なり、対外的に奨学金を提供するのではなく、UMMS(University of Miami School of Medicine:マイアミ大学医学部)のCOE(Center of Excellence:センター・オブ・エクセレンス)と呼ばれる機関の一つ屋根の下に集まった学際的科学者集団が行う研究への資金提供を行っている。
MPは、科学研究に関心を持つ外科医のバース・グリーン医師(Barth Green, MD)と自らや近親者が脊髄損傷を負っている同様に熱心な3人の活動家ドン・ミスナー(Don Misner)、ベス・ロスコー(Beth Roscoe)、そしてニック・ビュオニコンティ(Nick Buoniconti)によって1985年に創設された。この4人の創立メンバーの考えは、脊髄修復の諸問題についての様々な専門技術を持つ科学者らを一か所に集めた方が分散的な手法よりも大きな成果を生むというものであった。
今日、MPは、この創立時の構想を継承する学際的研究センターとなっている。このセンターで行われている研究のほとんど(約70%)は基礎科学研究である。残りの30%が臨床研究とリハビリ研究の分野であるが、その割合はより多くの資金が利用可能になれば増やされることになる。また、MPは、SCIへの「全人的」アプローチにおける教育活動の支援も行っている。
MPの年間予算の約半分は、各研究者に提供される助成金や契約を資金源とし、残りの半分は個人や企業や民間財団から提供されている。個々の科学研究プログラムについては、年次報告が行われ、資金提供の決定は、生産性と科学的重要性に基づいて行われる。
MPの主たる目標は、SCIの研究に携わる科学者の人数を増やすことにある。この目的の達成に向けて、MPやUMNP(the University of Miami Neuroscience Program: マイアミ大学神経科学プログラム)の研修生(大学院生や博士研究員ら)には、民間からの寄付によって設立された奨学金が用意されている。また、MPは、NINIDS(National Institute for Neurological Disorders and Stroke:米国国立神経疾患・卒中研究所)が主催するFORE-SCI(Facility of Research Excellence for Spinal Cord Injury:優れた脊髄損傷研究を行う施設)プログラムからの資金提供を受けて、夏期講習を受ける学生や博士研究員や客員学者の研修も行っている。
MPのメンバーが関わったSCI研究における主要な進歩には、急性SCIでの神経防護戦略として期待される低体温法やIL-10(インターロイキン10)やガングリオシドの開発が含まれる。また、MPのメンバーは、実験動物での慢性SCIの再生を助けるシュワン細胞やOEG(嗅神経鞘グリア細胞)やneurotrophin(神経栄養因子ニューロトロフィン)や幹細胞の研究にも関わっている。
SCIを負った人々に日常的に行われている診療に研究が及ぼした影響の一例には、SCI後に発生する高熱や低酸素症のような二次的損傷の原因の有害作用やこれらの損傷原因を最小限に抑えるために現在行われるようになった処置についての臨床上の認識の高まりがある。慢性SCI患者らについては、健康の改善につながっているリハビリ法や運動訓練法の進歩がSCI後のリハビリについての考え方に影響を及ぼしている。
PVA(Paralysed Veterans of America:米国退役軍人マヒ者協会)
PVA(www.pva.org)は、第二次世界大戦でSCI(脊髄損傷)を負った約2000名の米国軍人を支援する為に、1947年に設立された。PVAの設立当初の目標のひとつである質の高い研究に対して資金提供を行ってSCIや脊髄疾患を抱えた人々を支援するということは、現在もその使命宣言の一部となっている。
PVAのTRF(Techonolgy and Resarch Foundation:技術研究基金(後にSCRF(Spinal Cord Research Foundation:脊髄研究基金)に改名される)は、マヒの医学的影響の軽減および最終的な解消、脊髄機能障害についての現行の治療法や介護法の改善、革新的なリハビリ療法や福祉用具の開発、そして次世代の研究者の養成を目的に1975年に設立された。SCRFによる資金の割当は、PVAのメンバー(SCIや脊髄疾患を抱えた退役軍人ら)と職員からなる評議会が研究案の解釈を担当する科学評価委員会の助言を参考に票決によって助成金を決定する制度を利用して行われる。この制度では、需要側に立つ人々が専門家である科学者の勧告に基づいて自らの生活に重要な影響を及ぼすと判断する助成金に資金提供を行うことが可能となる。我々の知る限り、このような形で運営されている脊髄損傷基金は他に存在しない。
SCRFは、その発足以来、3000万米ドル以上をカナダと米国国内の研究機関や病院に提供しており、その内の約1400万米ドルが基礎研究に提供され、約600万米ドルが臨床研究に提供された。
SCRFは以下の分野に2年間の助成金を提供している。
- 治療法を発見することを目標とするSCIや脊髄疾患に関する基礎科学研究
- 脊髄機能障害が及ぼす医学的、社会心理的、経済的影響やこれらの影響の軽減のために提案される介入処置についての臨床研究や実用研究
- 脊髄機能障害をもつ人々の為に改良されたリハビリ法と福祉用具の設計および開発
- 脊髄研究に携わる人々の研修や専門化を奨励する博士研究員や臨床医や技術者を対象とした奨学金
- マヒに関わる科学者や健康サービス・プロバイダやその他の専門家間の相互作用機会を提供する会議やシンポジウムの開催
ほとんどの分野には、年間7.5万米ドルが提供され、奨学金には、2年間まで年間5万米ドルが提供され、会議には、通常、2,000?15,000米ドルが提供される。
臨床医学の重要性を認識するPVAは、統制研究プロセスにおいて臨床研究の特定分野に的を絞っている。このような特定臨床研究分野に割り当てられる金額は、基礎研究と臨床研究と技術研究に隔たりのある分野についての認識の高まりによって、今後数年間の内に増額される可能性がある。
すべての職員の給与をはじめ、助成金についての財政支援は、主としてPVAによって行われている。最近、SCRFは、給与天引きや贈与や遺言や遺贈を通じて贈られる個人からの多額の寄付やPVAの諸支部からの相当額の資金などの第三の財源から、より多くの資金提供を受けはじめている。SCRFとしては、個人からの寄付の拡大や企業や他の諸財団との新たな提携による財源のさらなる多角化を望んでいる。収入の流れの多角化が実現されれば、SCRFが提供する1回分の資金の増額が可能となり、近い将来の治療法の獲得の期待もますます高まることになる。
RHMIMF (Rich Hansen Man in Motion Foundation:リック・ハンセン・マンインモーション財団)
1985年から始めた2年2か月と約2日間にわたる車椅子での世界一周で世界の注目を集めたリック・ハンセンは、SCIの研究やリハビリや車椅子スポーツの為に2600万カナダドルを超える寄付金を集めてRHMIMF(www.rickhansen.com)を創設した。
RHSCI-Net(Rich Hansen Spinal Cord Injury Network:リック・ハンセン脊髄損傷ネットワーク)は、以下の全く異なる3団体を統合している。
現在、これら3団体間の相互作用や情報の共有を可能にするために、中央脊髄登録簿とデータベースが作成されつつある。これまで、RHMIMFは、1億4800万カナダドル以上の資金提供を行っており、リック・ハンセンは、さらなる拡充に向けて一身をささげている。同氏の決断力やリーダーシップや構想力は、政府やNGOや科学者や慈善活動家や民間企業の力を一つにまとめてSCIを負った人々のQOL(生活の質)の向上を加速させるという協力による手法の推進力となっている。
- 研究者達?新発見とそれに続く新しい処置法や治療法へのその移行を促進させるため
- SCIを負った人々にサービスを提供する人々?より効果的にリハビリを健康維持や住居や地域プログラムのニーズに適合したものにするため
- SCIを負った人々とその家族や友人達?ニーズと関心事を明確にし、研究や事業プログラムにそれらを反映させるため
RHSCI-Netは以下のプログラムによって形成されている。研究ネットワークにおける活動の中心であるICORD(International Collaboration of Repair Discoveries:新修復法についての国際共同研究)は、研究者らを戦略的につないで共通の目標を設定し、情報を共有させ、新たな薬やリハビリ治療用バイオテクノロジー機器や手術方法への迅速かつ的確な基礎的な発見の移行を可能にする。現在進行中のプロジェクトには、研究者らの支援と協力の継続を通じたネットワーキングと協力研究者の収容力の拡大、SCIを負った人々用のウェブサイトにおける対話式オンライン登録簿の開発、性と生殖に関する健康の研究、SCIについての過去や現在の医療介入の効果を検証することによってQOL(生活の質)の改善や延命を可能にするリハビリ戦略、そして社会調査がある。
ICORDの拠点は、発見研究と臨床やリハビリの研究や実用を合体させる2005年に完成予定の新しい国際研究センターに移転することになる。なお、RHMIMFとカナダのブリティッシュコロビア州立大学とバンクーバー海岸保健局との提携により、この新しい研究センターでは、SCIの影響を最小限に抑えてマヒを防止し、SCIを負った人々の身体機能を最大限に高め、脊髄再生によって身体機能を完全に回復させることに注力する300人を超える研究者と客員研究チーム12チームに機材や設備が提供されることになる。
マンインモーション・ワールド・ツアーの10周年記念として1997年に設立されたカナダ全国規模のプログラムであるRHNI(Rich Hansen Neurotrauma Initiative:リック・ハンセン神経外傷イニシアティブ)は、脳損傷やSCIを負った人々のニーズに対する支援と対応を拡大し、研究やリハビリや事故防止に資金を提供するようにデザインされていた。現在、このプログラムは、ブリティッシュコロンビア州ではRHNI-BCとして、そしてオンタリオ州ではONF(Ontario Neurotrauma Fund:オンタリオ神経外傷基金)として継続されている。
カナダのブリティッシュコロンビア州政府は、脳損傷やSCIの発生件数の多さや障害の深刻さ、そして交通違反が神経外傷のリスクを増大させる事実を認識し、RHNIを通じて州の交通違反罰則金の一部を神経外傷の分野に割り当てている。年間200万カナダドルが、BIABC(Brain Injury Associations of BC:ブリティッシュコロンビア州脳損傷協会)とBCPA(BC Paraplegic Association:ブリティッシュコロビア州対マヒ協会)を通じて研究や地域社会に割り当てられ、神経損傷リハビリや事故防止のためのイニシアティブの支援が行われている。
現時点ではICORDをはじめとする研究のためのイニシアティブに重点が置かれていることから、RHMIMFやRHI(Rick Hansen Institute:リック・ハンセン研究所)やRHNI-BCやCNRP(Canadian Neurotrauma Research Programme:カナダ神経損傷研究プログラム)を介した外部からの助成金申請の受付は行われていない。なお、これらのプログラムで現在提供されている助成金は全て継続される。
SRFA(Spinal Research Fund of Australia Incorporated:オーストラリア脊髄研究基金)
SRFA(www.srfa.com.au)は、機会を逃すことなくSCIの治療法の研究のために多くの資金を集めるためにドーン・フェレット(Dawn Ferrett)とニール・サッチス(Neil Sachse)が1994年に設立した。きっかけはある独立審査報告で、その報告ではSCI治療の成功には保険金請求のコストを低減させる可能性があることが示されていた。そこで著名な実業家に依頼してSRFA委員会を組織し、(例えば保険業界からの)CS(Corporate Sponsorship:企業スポンサー)が資金提供を行って研究プロジェクトを支援し、公的支援によって一般管理費を賄うという事業計画が策定された。最近では、臨床試験につながる研究に集中的に重点が置かれていることから、その資金提供のためにはより大きな財源を開拓しなければならない。
SRFAは、基礎研究ではなく、治療法の開発を目指す研究の支援を行っている。また、研究案を公募するのではなく、既存のプロジェクトをまず確認してから、スポンサーへの資金提供依頼の申し入れが行われる。なお、対象となるプロジェクトは、オーストラリア国内のプロジェクトに限定され、研究の質は国内外の専門家による外部審査によって保証される。
オーストラリア、アデレード市のフリンダース大学(Flinders University)で研究に取り組んでいる成長因子の専門家であるロバート・ラッシュ教授(Prof. Robert Rush)は、ヒトにおいてマヒを逆転させる治療法の研究について7年間にわたって資金提供を受けている。科学者や臨床の専門家による独立中間審査では、このプロジェクトの継続が推薦され、さらには営利法人によるこの治療法のさらなる開発を奨励する方法の一つとして、特許申請の提出の検討も行われた。この研究プロジェクトは大きな成功を収め、神経線維を刺激して負傷部位を超えて成長させることに関する論文と新たな神経の成長を確認するための新方法についての論文の2つの重要な論文の発表をもたらした。SRFAとしては、これらの新発見を慢性SCI患者による臨床試験に移行したいと考えている。
また、SRFAは、オーストラリア、シドニー市のガーバン研究所(Garvan Institute)で行われていた皮質脊髄路内の運動ニューロンにneurotrophin(神経栄養因子ニューロトロフィン)遺伝子を直接送り込む体系的方法を開発して再生を刺激し機能的接続を回復させるもう一つの1年プロジェクトを確認して、その資金提供を行った。
これらのプロジェクトは共に、新たな研究者のこの分野への参入のきっかけとなり、SCI研究の進捗の認識拡大に役立っている。SCI治療法を開発するには多くの専門技術が必要であると考えるSRFAは、SCI治療法の開発という目的達成の最良の方法として研究をネットワークで結ぶ方法を推奨している。こうしたことからSRFAは、ICCPに加入し、一刻も早く臨床診療で新しい治療法が利用できるようになるように情報の共有に努めている。
校正時特別追加事項
KWNPF(Ken Waldrep National Paralysis Foundation:ケント・ウォールドレップ全米マヒ財団)は、18年間の活動を経て、2003年7月にその歴史に幕を閉じた。KWNPFは、その活動期間中にSCIの研究のために2100万米ドルを超える資金を集めた。
謝辞
この記事に含められた多くの情報の提供に対し、すべてのICCP加入団体の元職員ならびに現職員に謝意を表する。
参考文献
- Bracken MB et al. A randomized. controlled trial of methlprednisolone or naloxone in the treatment of acute spinal cord injury. N. Engl J. Med 1990:322:1405-1411.
- Pearson H, In search of a miracle, Nature 2003;423:112-113.
- Harper GP, Banyard PJ, Sharpe PC. The International Spinal Rescarch Trust’s strategic approach to the deve1opment of treatments for the repair of 'spinal cord injury. Spinal Cord 1996;34:449-459.
- Ramer MS, Harper GP, Bradbury EJ. Progress in Spinal Cord Research : a refined strategy for the International Spinal Research Trust. Spinal Cord 2000:38:449-472.
- Ellaway PH et al, Towards improved clinical and physiological assessments of recovery in spinal cord injury: a clinical initiative. Spinal Cord 2004, 42,325-337.
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