| 脊髄損傷に関するICCP臨床試験ガイドライン |
注記: ICCPでは2006年春までに4,5回の委員会を開催し、標記ガイドライン作成を目指している。以下は最初の会議においてまとめられた脊髄損傷の自然治癒率に関する文献調査のまとめである。 〔JSCF〕事務局 本文の翻訳:赤十字語学奉仕団;翻訳者は坂本剛、渡辺理恵子さんによる。(050310)
原文はこのHP参照を: http://www.icord.org/ICCP/ICCP_SCI_Guidelines1.doc
前書き ICCPは、2004年2月20〜21日にバンクーバー(カナダ)で、約100人の代表が参加して、第1回国際ワークショップを組織した。初回のワークショップの論者は、脊髄損傷コミュニティの典型と同様に、リハビリテーション・センター、急性期脊損ユニット、基礎科学研究室、政府機関、製薬・生物工学企業、非政府組織、財団を含む種々の専門分野と背景を代表したものである。脊髄損傷患者が関係する進行中の臨床治験の報告は、会議で発表された。この会議の重要性は、開催する中で見出された:
* Steeves JD, Fawcett JW, Tuszynski M(2004)による脊髄損傷に関する国際的な臨床治験ワークショップの報告:Spinal Cord 42:p.591-597を参照せよ。
多くの臨床治験は、ここ数年にわたって始められる。バンクーバーでのICCP 臨床治験ワークショップの結果の1つは、最も正確で効果的方法で将来の脊髄損傷臨床試験を展開する方法のための、より詳細なガイドラインを出すために専門調査委員会を設立するためのワークショップ参加者による電子投票であった。この文書は、これらの専門調査委員会での第1草稿について報告する。
ロサンゼルスでの第1回ICCP 臨床治験専門調査委員会には、受傷後における神経の接続性と機能の自然治癒に関する検討可能なデータを評価することが課されていた。この会議の目的は、自然治癒率に関する最近の文献をチェックすることであった。より長期の目的は、神経病学的アウトカムと同じ尺度を使用し、反応レベルを予測でき統計学的有意差を提供しそうな患者集団のサイズを算出するため、統制された治験を設計し、必要とされるデータを集めることである。
参加者 Andrew Blight
James Fawcett
James Guest
Alain PrivatBruce Dobkin
Michael Fehlings
Leif Havton
John SteevesPeter Ellaway
Bob Grossman
Dan Lammertse
Mark Tuszynski
治験デザイン上の問題
脊損後の回復の概略については、よく知られている。脊髄損傷(SCI)直後に重度の1次マヒをきたした患者の大部分は、神経学的には部分的あるいはほぼ完全に回復する。損傷後の時間が経過するほど、より確定的な最終的帰結を予測することができ、このことは神経学的に完全マヒのSCI患者において特に当てはまることである。したがって、損傷後24時間以内に適用される治験では多くの被験者の参加を求めなければならないが、一方、損傷後の回復期に適用される治験では、損傷後、一定期間経過後に介入することで、より正確にアウトカムを予測することができるため、被験者はより少なくて済むことになる。
本ワークショップの主要な目的は、受傷ののち、特定の日数経過後に治験を開始する際、必要となる患者群の規模を求めるため、研究者の算出に供するようなデータを集めることである。我々が集めた後述のデータは現時点で不完全であり、また、公表されている数値から、治験に要する患者群の規模を計画するのに不可欠な集合数計算に必要なデータ全てを抽出できない。
ここには問題が二つある。一つは主要な出版物には分散の値が示されていないことであり、もう一つは、現在考えられている治療方法によりもたらされるであろう回復のパターンがあるが、発表されたデータはこのパターンに従ったフォーマットでないことである。
すでに始まっているか近く開始される治験は、脊髄における軸索再生と可塑性の双方またはその一方を促進させる治療法を主として用いるものである。具体的にはRhoブロッカー、NogoA抗体、コンドロイチナーゼ、嗅神経鞘細胞移植、栄養因子によるものなどがある。脊髄の損傷レベルより一つ下の髄節で、こうした治療の主要な効果が発現すると思われる。したがって、このような髄節での回復パターンに関するデータおよび回復と損傷レベルからの距離との関係についてのデータが特に重要となる。
用語の定義
損傷の記述に使用する用語から、自然回復についての事柄に混乱が生じている(下線は原文のまま)。
(ASIA分類で定義される)神経学的損傷レベルは、体の両側で正常の機能を有する最尾側の髄節である。
運動レベルとは筋力が3以上を有する最尾側のレベルと、そのレベルより上で筋力が 5の髄節である。
知覚レベルとは、ライトタッチおよびピンプリックで両側に正常の知覚を有する最尾側の髄節である。
一部残存の区域とは、神経学的レベル以下で検出可能な運動機能または知覚機能が残存した髄節である。
ASIA分類は損傷の完全・不全の分けかたについて述べている。
ASIA-A: 仙髄節S4-S5に運動・知覚機能が全くないもの。 ASIA-B: S4-5を含む神経学的損傷レベルより下位に何らかの知覚機能を残しているが運動機能がない。 ASIA-C: 神経学的損傷レベルより下位に何らかの運動機能は残っているものの、主要筋群の半分以上が筋力3未満であるもの。 ASIA-D: 神経学的損傷レベルより下位に何らかの運動機能を残しており、主要筋群の半分以上が筋力3以上であるもの。 ASIA-E: 運動・知覚機能ともに正常なもの。
ASIA運動スコアは、各脊髄レベルの神経支配を受ける一つの筋肉群に対して0(全マヒ)から5(最大抵抗時の動作)までのスコアを割り当てることにより計算する。C5からT1、L2からS1について、両体側各10レベルをテストし、最高のスコアは100までとなる。
ASIA知覚スコアは、デルマトーム(皮膚分節)の先端による刺激をC2からS4-5まで、両体側についてそれぞれライトタッチおよびピンプリックでテストして算出する。各検査点についてスコア0(無知覚)から2(正常)までを付ける。片側で56点、合計112点が最大点となる。
評価の方法
脊損被験者の評価方法は大きく分けて以下の二つである。
a) 脊髄の神経学的接続性を述べることを主な目的とした評価。ただし被験者の神経学的接続性を使用する能力には着目しない。 b) 日常生活における被験者の機能的能力の評価。これらは、治療とリハビリに深い関係のある検査ではあるが、神経学的接続性とは無関係に変化することもある。
被験者の活動を測定することはリハビリと治療により深く関係する。とは言え、これまでの治験では神経学的接続性に関する情報を得るような調査の形態が集中して行われて来た。このような連絡に関する調査では、治療が将来の第 1相 および 第2相の治験に影響を及ぼすかどうかを示すことに最大の目的が置かれると考えられるが、この影響はさらなる神経接続の生理学的な治験によって証明されることになるであろう。しかしながら、実生活で患者の能力が向上したのでなければ、どの治療法も患者の治療に効果的であるとは言えないであろうし、検査がそのような成果を示すことが信頼の置ける治験の要件となるだろう。
データの出典
脊髄損傷に関して、二つの大規模な二重盲検プラセボ対照試験薬理試験と、一つのリハビリテーション治験が文献に記録されている。同試験のプラセボ群から得られたデータにより、対照試験としてみなすことで損傷からの自然回復について調査することができる。加えて、長期的なアウトカムについての研究が多数あるため、損傷からの予測回復率についての貴重な情報源となり得る。
1. 全米急性期脊髄損傷研究(NASCIS: National Acute SCI Study)の3件の治験では、損傷後数時間以内にMP(メチルプレドニソロン:methylprednisolone)、ナロキソン(naloxone)、tirilazad mesalate を投与した治療について調べている。倫理上の理由で第二回の治験(NASCIS II)のみ、プラセボ群を設けた。 第一回の治験では、裏付けに乏しいものの長年にわたり使用が確立されている薬剤に有効性があると仮定し、10日間、MPを少量および比較的大量に投与し、両者を比較した。
機能的アウトカムに差がみられなかったことで倫理的なハードルは下げられ、第二回の治験では、プラセボ群、超高用量の24時間 MP治療群およびナロキソン群という3群の間で比較した。緊急入院患者を対象とし、多くは損傷後12時間以内であり、平均して損傷8.9時間後に治療を開始した。2. Sygen(GM-1 ganglioside)の治験では、自然回復に関する大規模な調査(760人; Geisler ら2001)と合わせて行われた。被験者は損傷後3日以内で、多くは2日目に検査され、最長1年の間隔を置いてアウトカムを調べた。 3. モデルシステム研究(Marinoら1999)では、脊髄損傷センター数箇所で、入所した4365人の被験者について調査した。初回の検査は損傷後一週間以内に実施された。 4. Watersら(1993年 Arch Phys Med Rehabil 74)は、損傷レベルがC4〜C7の完全四肢マヒ者61人のアウトカムについて追跡調査を行った。損傷後30日未満の被験者に対し、脊髄損傷病棟入院時に初回検査をし、最長二年間に渡って追跡した。 5. メチルアスパルテート(NMDA)受容体ブロッカーについて、フランスで大規模な治験が行われ、現在出版に向けて準備中である。本報告で扱う最新情報に含まれる予定である。
本委員会が調査対象とした研究には上述の研究および他の小規模研究がある。これらの研究は後述する文献一覧のとおりである。
発表されたデータの形式
発表されたデータのほとんどは、患者の神経学的状態およびASIA分類(またはNASCIS: National Acute SCI Studyではほぼ同様の分類)における回復率について述べている。
損傷の完全・不全についてASIA-A 〜 ASIA-Eを用いて分類され、ASIA評価(grade)内の換算率に関するデータがある。
運動機能の回復についてASIA運動スコア(またはNASCISでの同様の指標)で表わしている。
頚損と胸損を分離して記述し、初回検査後の回復について、ASIA評価による運動機能の点数を用いて測定している。いくつかの例外を除いて、調査したデータではASIA分類で定義される損傷レベルより、1つ下、2つ下、3つ下または4つ以上下位のレベルでどの程度の回復が見られたかは明らかにされていない。対象研究のほとんどにおいて、機能の一部残存区域に回復が限定されているか、または一部残存区域より下位で回復が起こったかを判断することはできない。体の片側についてのデータしか発表されていない例が多い。
知覚機能および知覚レベルの変化については、損傷後のASIA知覚スコア(またはNASCISでの同様の指標)により表現される。
自律神経の機能回復を詳細に測定した研究はない。(Sygen治験では、膀胱機能について少数被験者で経時的な評価を行っている)。その他の中心性脊髄損傷(CCI)に関する研究では、ASIAスコアの筋肉の機能回復を予測するものとして膀胱機能の有無が利用されている。