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第 5 章
関 節 可 動 域


 身体は骨格系、筋肉、関節によって形作られている。骨格は関節と呼ばれる骨の接合部がいくつも連なってできている。関節の働きには、自由に体を動かすことを可能にすることと、体重を支えることがある。それぞれの関節は筋肉、腱、靱帯および関節包によって覆われ、それらによって関節は安定に保たれている。筋肉は関節と交叉していて、骨を動かしている。

 関節がどの程度動くことが可能か(関節可動域)は、靱帯、腱、筋肉および関節包がどの程度強固に関節を取り巻いているかによって決まる。これらの構造がよりゆるく、柔軟であればあるほど、より大きく動くことができ、逆に、強固であるほど、動きは小さくなる。

 長期の関節とその支持組織の緊張状態は可動域を自然に狭めてしまう。これは拘縮とよばれる。拘縮の治療には固定的ストレッチ(長時間の座位、及び筋肉と関節のストレッチ)と、温熱療法が含まれる。拘縮を伸展させるための外科的手順が必要だろう。拘縮は少なくとも体を変形させ、褥創や身体活動をする能力の喪失を招く原因となる。それらは健康を著しく防げることになる。最良の策は拘縮を予防することである。「神経、筋肉、骨」の章を参照のこと。

 一般的に、日常の運動によって関節や筋肉の柔軟性や可動性が維持され、筋肉は収縮したり伸展したりしている。

 脊髄損傷により日常の運動が不十分になると、関節の十分な可動性が損なわれる場合がある。このため、関節を伸張させ、関節の周囲の組織を柔軟にするための適切な訓練法が必要である。
 
 受傷後の運動機能の喪失は予測可能なパターンを示す。車いすに座ることは、臀部の前方から膝裏へクロスしている筋肉を短くする。十分に直立の姿勢で座位をとれないなら、左肩前方と頚部の緊張がみられ、前かがみの姿勢になる。ベッドに横になった時には、毛布が足の指を下垂させる原因となり、それは足首の裏側の筋肉を短くする。

 横になることや緊張が固定される(拘縮)ことによって(それらの)筋肉が逆に短縮する原因となり、運動能力が制限されることは進展にとって重要な問題である。運動能力の喪失はあなたに、そしてからだに様々な影響を与える。臀部や膝、肩の関節の緊張はしばしば体を動かす際の姿勢を制限することになる。この活動の制限を逆に、自分のために利用することができる。

 筋肉が短くなる姿勢について言えば、手動車いすの使用は、肩の前方の筋肉の強化と緊張を助長する。これは肩を丸くする姿勢につながる。前部筋肉の注意深いストレッチと後部筋肉の強化は、肩の周囲の筋肉バランスを向上させる。

 手足や体幹の関節可動域が制限されると、からだに加わる圧力がからだ全体に分散せず、ある特定の部分に集中してしまう傾向がある。この局所的な圧力は、皮膚が傷害される危険性を著しく高める。また、関節の柔軟性を維持すると、筋肉の痙性が減少する傾向もある。

 最適の座位をとることは、健康な皮膚を保ち痛みのない肩とする上で重要である。臀部の運動機能の喪失は、鼠蹊部を清潔にする妨げとなり、特に両足の位置が性交の妨げとなる。筋肉の柔軟性を維持することは痙性の減少をもたらす。

 理学療法士や作業療法士は、関節可動域の維持のためにどのような訓練を行なえばよいかを指導することができる。訓練法のプログラムは、個人個人の状態や必要性に合わせて特別にデザインされる。もし自分ひとりでできないメニューがある場合は、介助者にどのように頼めばよいかについても教わることになる。訓練が自分ひとりでできないとしても、自分の身体のために何をすべきかについては自己責任をもつように自覚することが重要である。
 
 セラピスト(療法士)より、特に手や手首に対してある程度柔軟性を消失させて腱の固さを作るように指導される場合がある。これは、選択的に腱を固くするもので、腱固定(テノデーシス)と呼ばれる動作により、手の機能をかえって拡大できることがあるためである。

 関節可動域訓練が重要であるのと同様に楽しむ時間を持つことも重要である。もし頚髄損傷であれば、毎日の多くの仕事にアシスタントが必要となる。現実にどれだけの時間を関節可動域訓練に使うかは非常に重要な問題である。この訓練が自分にとっていかに重要であるかをセラピストに聞きなさい。着衣や入浴のための訓練について、どのように一緒にできるのかをセラピストに聞きなさい。それらはそれぞれのデイ訓練プログラムとして作ることが可能であり、あなたは最大で1日30分、可動域訓練をすることになるだろう。

 他方、より低いレベルの腰髄損傷であれば、異なった課題がある。筋肉の協応運動が取れない(元の状態に戻せない)ので、弛緩への対処が課題となる。特に両足の全ての動きを停止する位置を明確に示すようセラピストに聞きなさい。

 脊髄損傷者は誰しも、動かなくなった臀部前方の筋肉(臀部収縮筋)を引き締められるよう、特別の注意を払っている。これは大きな強い筋肉で、一度引き締めることで、ベッドや車いす、立位での様々な姿勢をとることができる。

 この筋肉を強化する最もよい方法は、少なくとも日に2回うつぶせに寝ることである。受傷間もない人にとってこれを始めることは、臀部収縮筋の思わぬストレッチになる。一度この筋肉を引き締めると、腹這いになることは背をまさに弓形にすることになるからである。


 ◆ 自分で行なうストレッチ

 受動的関節可能域訓練(PROM:self passive range-of-motion)を自らすることは効率的なプランである。

 まず腹這いになる:ポイントはベットサイトから足を離すことである。これはベッドに腰かける助けになる。次に肘の訓練に進めるが、お腹の服のボタンはベッド表面から離さないようにする。5分ほどこれを保つか、痙性が少しある場合はもう少し行なう。いくつかの本を読んですることは良い方法である。これで長時間の座位訓練の段階に進めることができる。

 片膝を胸のほうに持ってきて、両足を交叉させるために、足がまさに膝の上にきたときに降ろす。このポジションでいくつかのストレッチができる。

 第1段階: つま先のストレッチは足をあげ背屈のストレッチを行なう(足を引き上げる)。片手でプッシュダウンする間、もう片方の前腕で足裏に逆らってプッシュアップする場合、これはベストの方法である。

 前足の間でかかえ込む姿勢もまたストレッチによって安定化する。ここで、他方の足を引き、もう片方の足をまっすぐにする。

 同じ側の手と体を回転させて引き寄せ、胸を持ち上げる(骨盤前部のひねりで移す)。これは足首のストレッチと同時に、ハムストリング(膝裏の腱)のストレッチにもなる。足を代えこれを繰り返す。


 第2段落: 関節可動域訓練では、筋肉や組織を締めたり伸ばしたりする。ゆっくりと10数えるまでその姿勢を保持することが望ましい。体を動かす時にはゆっくりとスムースに行なうこと。姿勢を保持するときにはしっかりと姿勢保ちかつ圧力がかからないように行なう。筋肉が緊張する痙性を招かないよう、体をバウンドさせてはならない。


 留意点
  1. ストレッチの際は過剰な力を加えてはならない。筋線維の伸張(ストレッチ)に必要な力で十分である。過度の力は骨折や筋肉を傷つけたり引き離したり、関節を脱臼させたりする。

  2. 弾みをつけるよりも静かに姿勢を保つように心がける。痙性がある場合は特にこの点が重要である。それによって、筋線維は十分にリラックスし、伸張することができる。反動をつけると筋肉の緊張を高めてしまうことになる。過剰な力をかけすぎると、骨折、筋肉の断裂や損傷、脱臼などを引き起こすことがある。

  3. ストレッチは午前か夕方、皮膚の状態を観察する時にあわせて実施することがよい。


 ◆ 援助による関節可動域訓練
 
 以下に示す関節可動域訓練法は、安全に実施することができるように、” SAM”(サム:収縮期前方運動)と呼ばれる形式を用いて正確な動きと姿勢を説明している。注意深く動かし、伸びきったり、背中を痛めたりしないよう介助者に指摘しなさい。

 SAMとは、以下の頭文字をとったものである。
 S: Starting position:開始姿勢
 A: Attendant’s action/position:介助者の動作・姿勢
 M: Movement:動き

*1 体幹の回旋(胴体のひねり)
S: 仰向けになり、両膝を胸の方に曲げる。
A: 足もとに膝をつき、手をあなたの両膝においてもらう。
M: 肩を水平に保ちながら、膝をできるだけベッド面に近づけるように膝と腰を片方向に回転させる。必要に応じて介助者は、回転方向と反対側の肩がベッド面から浮かないように押さえる。
*2 体幹の屈曲(胴体の曲げ)
S: 両足をそろえて仰向けになり、膝を曲げて胸の方に近づける。
A: 足もとに膝をつき、手を両膝においてもらう。
M: 膝を曲げて胸に近づけ、背中の筋肉を伸ばす。
*3 膝を屈曲しての股関節外転(膝曲げ開脚)
S: 膝を曲げて仰向けになる。
A: 両膝に手をおき、介助者の膝と膝の間に足が入るように膝まずき、足を保定してもらう。
M: 膝を開いて、持続的に力を加えながらそれぞれの膝をベッド面に近づける。ただし、介助者の体重がかからないように注意する。
*4 股関節の伸張
S: 前後に傾かないように横向きに横たわり、上側の足をわずかに曲げる。
A: 後方に膝をつき、片方の手で上側の足の膝を下から支え持ってもらい、さらに前腕部分でその足のふくらはぎを支えてもらう。もう一方の手は、動かないように骨盤を押さえてもらう。
M: 上側の足を真っ直ぐ後ろに引いて介助者の方に近づける。
*5 ストレッチ (股関節の屈曲と伸張)
S: 仰向けになり、両つま先を天井に向ける。片方の膝を曲げて胸に近づける。
A: 片方の手をあなたの曲げた膝の上におき、もう一方の手をあなたの伸ばした足の膝の上においてもらう。
M: 曲げた方の膝を更に胸に近づけるように深く曲げ、伸ばした方の足はベッド面から離れないようにする。
*6 足の回旋
S: 仰向けになり、両足を伸ばしリラックスする。
A: 両手を一方の足の大腿部の上においてもらう。あるいは、一方の手を大腿部の上、もう一方を大腿部の下においてもらう。
M: 膝を内外に回転させる。膝に過度のストレスがかからないように、介助者があなたの膝より下に手をおかないよう注意する。
*7 アキレス腱のストレッチ
(腓腹筋・ヒラメ筋/足を伸ばす筋肉)
S: 膝を伸ばして仰向けになる。
A: 介助者の片手でかかとを下からすくうようにつかんでもらい、その手の前腕部分で足の指の付け根のふくらみ部分に圧力をかけてもらう。
M: 膝を伸ばした状態で、介助者は手でかかとを引っ張りながら、前腕部分で足の付け根のふくらみ部分を押して、つま先を膝方向に曲げる。
*8 伸張した状態での足上げ
(膝を伸張しての股関節屈曲)
S: 足を伸ばし、両足を少し離した状態で仰向けになる。
A: 2つの姿勢が可能。
1.両足の間に介助者は膝をつき、片手で一方 の足のかかとを持ち、もう一方の手で同じ足の膝を押さえる。もう一方の足がベッドから離れないように、介助者の膝で大腿部を軽く押さえてもら う。
2.両足の間に介助者は膝をつき、アキレス腱を介助者の肩に乗せてもらう。膝が曲がらないように、持ち上げた足の膝に介助者の手をおいてもらう。もう一方の手は反対側の足の大腿部におき、足がベッドから離れないようにしてもらう。
M: 膝をまっすぐに伸ばしたまま、ゆっくりと足を持ち上げる。足が介助者の肩からすべり落ちないように注意する。足を上げていくと、緊張のために少し膝が曲がり始める。この場合、介助者は、あなたの足を少し低位置に下げ,そこで保持する。足が天井と垂直になる角度を超えて持ち上げてはいけない。 介助者には、背中を伸ばしすぎたり、痛めたりしないよう注意して動くように依頼すること。
*9 前方への屈曲
S: 手のひらを上にして腕を身体の横に沿わせておく。
A: 片方の手であなたの手首か手を、もう一方の手であなたのひじの後ろを支えてもらう。
M: ひじが後ろ、手のひらが前で、腕を伸ばした状態を保ちながら、質問をするときに手を上げるように、あなたの頭の上まで、腕を上げていく。
*10 外 転
S: 仰向けになり、手のひらを上にして腕を身体の横に沿わせておく。
A: 一方の手であなたの手と手首を、もう一方の手で肘を支えてもらう。
M: 一方の腕をベッド面に沿わせた状態であなたの身体の横から頭のほうに持ち上げる(ジャンピングジャック*の動作に似ている)。〔*訳注:気を付けの姿勢と開脚で、両手を頭につける姿勢を跳躍して交互に繰り返す準備運動のひとつ。〕
*11 肩の回旋
S: 身体に対して90°になるように腕をおき、さらにひじを90°に曲げる。
A: 一方の手でひじを包むように持ってもらい、もう一方の手で手首と手を支えてもらう。
M: 手を頭側にベッドにつくまで回旋させ、次に、腰側へ再びベッドにつくまで回旋させる。肩とひじは90°に曲げた状態を維持する。
*12 肩の伸張
S: 椅子に座るか、あるいはベッドに横向きに横たわる。
A: 一方の手で肩を保定してもらい、もう一方の手でひじのすぐ上の腕を下から持ち上げてもらう。
M: ズボンの後ろポケットに手を突っ込むときのように腕を体の後方へ持っていく。
*13 肩甲骨の「分回し」
S: 横向きに横たわり、上になった腕を腰か背中にたらす。
A: 一方の手で肩の前側を支えてもらい、もう一方の手は親指と人差し指の付け根部分が肩甲骨の角にちょうど当るようにおいてもらう。
M: 介助者にあなたの肩の前後を支えてもらった両方の手を同じ方向に回してもらい、肩甲骨をゆっくり大きな円を描くように回す。 〔訳注:基本軸を一定角度に保ちつつ円を描く運動〕
*14 肩甲骨の突き出し
S: 横向きに横たわり、上になった腕を腰か背中にたらす。
A: 一方の手で肩の前側を支えてもらい、もう一方の手は小指側が肩甲骨の隣に位置するようにおいてもらう。
M: 介助者に肩の前側においた手でしっかりと肩を後方に押してもらいながら、もう一方の手を小指側から肩甲骨の下に滑り込ませ、肩甲骨を背中から持ち上げる。
*15 ひじの屈伸
S: 手のひらを上にして腕を体の横に伸ばしておく。
A: 一方の手で手首と手を支えてもらい、もう一方の手で上腕を保定してもらう。
M: まず、腕を十分に伸ばし、次にひじを曲げて手を肩に持っていく。
*16 腕の内外転
S: ひじを90°に曲げてからだの横に腕をおく。
A: 一方の手で手首と手を支持してもらい、もう一方の手でひじのすぐ上の腕を保定してもらう。
M: まず、手のひらを頭側に回し、次に腰側に回す。さらに、同様の動作をひじを伸ばして繰り返す。
*17 手首の屈伸
S: 手首と指から力を抜く。
A: 一方の手で前腕を保定し、もう一方の手で手のひらをつかんでもらう。指は自由に動かせる状態にしておく。
M: 指は自由に伸ばせる状態にして、手首を下に曲げる。次に手首を上に曲げる。このとき介助者の手指によってあなたの指が曲がるのが妨げられないように注意する。
*18 手首の偏屈
S: 前後に曲がらないように手首を腕の延長上にまっすぐおく。
A: 一方の手であなたの手を支え、もう一方で前腕を保定してもらう。
M: 手首を上下に曲げずに左右に動かす。
*19 手指の屈曲
S: 指から力を抜き、手首を上に曲げる。
A: 手と手首を支えてもらう。
M: 手首は上に曲げたまま、ゆっくりと指を手のひら側に曲げる。
*20 手指の伸張
S: 手首と手指から力を抜く。
A: 一方の手で前腕を支え、手首を下に曲げた状態を保ちながら、もう一方の手で指先を下から持ち上げてもらう。
M: 手首は下に曲げたまま固定され動かないようにし、指関節が十分に伸張されるようにする。動かすのは指の関節のみで、手首は固定した状態にする。
*21 手指の外転
S: 手首はまっすぐにし、指から力を抜く。
A: 隣合う指同士がくっつくようにしてまっすぐに支えてもらう。
M: すべての指を開いてそれぞれを離す。
*22 手の可動化
S: 手のひらを下に向けて、指の力を抜く。
A: 両手で下から手を支えてもらい、右手の親指と人差し指で握り拳の部分の指関節のひとつを保定してもらい、左手の親指と人差し指でその隣の指関節を固定してもらう。
M: 一方の手でやさしく、指関節を下に押し、同時にもう一方の手でそのとなりの指関節を上に押す。次にそれぞれの指関節を反対方向に動かす。順番にすべての指関節について行なう。
*23 親指の外転・伸張
S: 手のひらを上に向け、指から力を抜く。
A: 一方の手で手のひらを保定し、もう一方の手で親指をつかんでもらう。この際、介助者の親指があなたの親指の付け根にくるようにする。
M: (ヒッチハイクの時のように)親指のみを手のひらから外側へ開く。
*24 親指の屈曲
S: 手のひらを上に向け、指から力を抜く。
A: 親指の爪の部分を保持してもらう。
M: 親指の先を小指の付け根に触れさせる。




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